課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
 


「お父さん」
 タクシーを降り、施設の玄関前に居た両親のところに走っていく。

 真湖、と振り返った父親だったが、一瞬、表情が止まる。

 その視線を追い、あ、そうか。課長も連れてくるとは、言ってなかった、と気がついた。

「あの、うちの課長の五嶋雅喜さん。
 心配してついて来てくださって」
と言うと、こんなときだというのに、両親どころか、職員の顔にまで、

 いや、職場の課長が普通、ついて来ないだろうよ、と書いてあった。

 雅喜とアパートを見に行ったときの浩太郎の反応と同じだ。

「あの、実は……」
と言いかけ、なんて説明したらいいんだ? と思う。

 此処に至るまでの過程がややこしすぎて。

 線路でいきなりキスされて、アパートが焼けて、同居して、真湖りんって職場で呼ばれたので、その言い訳に婚約することにした人です。

 長すぎる。
 そして、理解されなさそうだ……。

 そう思ったとき、雅喜が言った。

「すみません。
 今、お嬢さんとおつきあいさせていただいている五嶋雅喜と申します」

 母親の目は、真湖の指にはまっている指輪を見ている。
 それに気づいているらしい雅喜は続けて言った。
< 422 / 444 >

この作品をシェア

pagetop