課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
「お父さん」
タクシーを降り、施設の玄関前に居た両親のところに走っていく。
真湖、と振り返った父親だったが、一瞬、表情が止まる。
その視線を追い、あ、そうか。課長も連れてくるとは、言ってなかった、と気がついた。
「あの、うちの課長の五嶋雅喜さん。
心配してついて来てくださって」
と言うと、こんなときだというのに、両親どころか、職員の顔にまで、
いや、職場の課長が普通、ついて来ないだろうよ、と書いてあった。
雅喜とアパートを見に行ったときの浩太郎の反応と同じだ。
「あの、実は……」
と言いかけ、なんて説明したらいいんだ? と思う。
此処に至るまでの過程がややこしすぎて。
線路でいきなりキスされて、アパートが焼けて、同居して、真湖りんって職場で呼ばれたので、その言い訳に婚約することにした人です。
長すぎる。
そして、理解されなさそうだ……。
そう思ったとき、雅喜が言った。
「すみません。
今、お嬢さんとおつきあいさせていただいている五嶋雅喜と申します」
母親の目は、真湖の指にはまっている指輪を見ている。
それに気づいているらしい雅喜は続けて言った。