課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
「ご報告が遅くなりまして、申し訳ありません。
 実は、婚約しようかと。

 それで、先に指輪を買ってしまったのですが」
という説明の仕方をする。

 ……何処までもスマートにこなす人だな。
 あやうく、線路から語るところだった、と思っていると、母親たちは、急に、まあそれはそれは、と頭を下げ始める。

 ええっ? こんなときに、と思ったが、娘の結婚も彼女らにとっては一大事なのだろう。

「お仕事中でしたでしょうに、申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ、なにもかもご報告が遅れまして」
と雅喜が言うと、施設の偉い人らしい人が笑って言う。

「いやあ、こんな美しいお嬢さんじゃ、急いで指輪のひとつもはめさせておきたくなりますよね」

 だから、みなさん、そんな場合ではないですよ、と真湖は思ったが、施設の人たちには、よくあることらしく、家族ほどには慌ててはいない。

 だいたい、今までどの辺りを探したか聞いたが、もう一度、そこも見てみることにする。

 他所を移動して、そこに来ているかもしれないからだ。

 問題は、此処が住んでいた場所からは遠いということだ。

 自宅付近なら、ある程度、行きそうな場所は想像つくのだが。
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