課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
 その言い方に気がついた。
 おばあちゃんが、自分が誰なのかわかっていないことに。

 最近、会いに来ても、時折、わからないことがあるようだったが、今がまさにそのときのようだ。

 だが、おばあちゃんは、真湖を見て、まあ、と笑う。

「なんて可愛い子だろう。
 こんな子、育ててみたかったねえ」

 おばあちゃんの目には、何故か自分が子供に見えているようだった。

「可愛いねえ」
とおばあちゃんは真湖の手をつかんだ。

 子供を遊ばせるように軽くその手を振る。

 真湖はその場にしゃがみ込み、祖母の手に自らの手を重ねた。

 温かいその手を強く握り、そこに額をぶつける。

 おばあちゃんは、長男夫婦とソリが合わず、たまに行く旅行には真湖も連れていき、息抜きをしていた。

『お前たちと暮らしてみたいねえ』
ともらしていたことを思い出す。

 いや、どちらと暮らしても、衝突することはあるだろう。

 同じことだったとは思うが、今、何故かその言葉を思い出していた。

 此処へ来て、祖母は、ふと、真湖たち家族と暮らしていたらどうなっていたのか、訪れなかった未来を思い描いてみたのではないだろうか。

「足を痛めておられるようですね」

 身を屈め、雅喜が言った。
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