恋を紡ぐ
「…………何?」


昨日教室で聞いた声とは明らかに違う、かなり低い声だった。


「血が…………出てる」


あたしが自分の唇の端を指差すと、平坂くんも自分の唇の端に触れる。


「ああ……殴られたから」

「て、手当て、しますっ。保健室に……」

「いいよ別に。こんなのしょっちゅうだし、いちいち気にしてたらキリねえし」

「わ、私が見ちゃったから、キリなくないです。口のとこ腫れてるし、痛そうだし、ほっとけないです……」


私は再び彼の腕を掴んでいた。逃がすまいと思わず握っていたけど、自覚した途端どうしようどうしようと頭の中がパニックになった。


「…………変な人」


ぷっと平坂くんが笑った。


その声は昨日聞いた声と同じだった。


< 10 / 30 >

この作品をシェア

pagetop