恋を紡ぐ
男前な、というよりキザな台詞を照れもせずに言うその人は制服のスカートを履いている。多少の違和感はあるけど決して変な趣味ではない。


樫野澪(かしのみお)ちゃんはれっきとした女の子なのだ。


でもベリーショートの髪に中性的な顔立ちでちゃん付けするのはそれこそ違和感があるから、みんな呼ぶときは呼び捨てかくん付けしている。


「てめえ樫野! 昨日またサボりやがって!!」


その時勢いよく教室のドアが開いたと思ったら、樫野くん目掛けてスクールバッグが飛んできて、見事に樫野くんの頭にクリーンヒットした。


そしてセットのように上がる周りの女の子達の悲鳴。


樫野くんはその反動で窓ガラスに打ち付けられて、その樫野くんの首根っこを引っ張っていく男子がわたしの前を通り過ぎていく。


わたしより小さい。少し強面だけど男らしい顔をしている。


「いつも悪ぃな。邪魔した」


三年生で吹奏楽部の部長さんだ。その人が樫野くんを引っ張りながらわたしに頭を下げたから、わたしは慌てて「いえいえ、そんなことないです」と返してしまった。


樫野くんは吹奏楽部のエースなのにサボり魔だから毎日のように部長じきじきにお迎えが来るらしい。部長さんが樫野くんを乱暴に扱うのはもはや日常茶飯事だ。


「恵ちゃん助けてー!」と叫ぶ樫野くんが部長さんに殴られるのを苦笑しながら見届けて手を振った。


「片桐、片桐」


その時声をかけられた。


同じクラス委員の田崎くんだった。


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