恋を紡ぐ
「恵、お姫様抱っこしてください!」


お昼休み、クラスの女子数人がわたしの元に来たかと思えば突然そんなことを言われた。


「……はい?」


りんごジュースを飲んでいたストローから口を離す。


「あのね、このシチュエーションをどうしても再現したくて!」


女子の一人が広げて見せてくれたのは少女漫画だった。


どうなってそうなったのかは知らないけど、男の子が具合が悪くなってうずくまる女の子をお姫様抱っこで抱えて保健室に行くというシチュエーションだった。


「……期待に添えないようで悪いんだけど、わたし、うずくまってるとこからはお姫様抱っこできないと思う」


自分を非力とは思っていない。けど、漫画のシチュエーションを再現するには少なくとも男子並みの力が必要で、わたしはそこまで鍛えていない。


「ああ、それなら立ってるとこからやってくれても全然大丈夫だよ!」


わたしは漫画を見ながらまじかと白目を向きそうになった。


やんわりと断ったつもりだったけど食い下がられたか。


樫野くんなら「喜んで。お姫様方」なんて言ってしてくれるんじゃないかと思って教室を見回すけど、あいにく樫野くんの姿は見当たらなかった。


…………仕方ない。


「おっけ。一番手は誰?」


わたしが立ち上がると、わあっと歓喜の声が響いた。


「恵……」


心配そうにわたしを見上げる麻紀に向かって笑って見せた。


「お望みなら麻紀にもやってあげるわよ。されたこと、ないでしょ?」


何か言いたそうな麻紀から目を背けて「よろしくお願いします」と言う一人目の女の子の腕をつかんだ。


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