恋を紡ぐ
「……恵。大丈夫……じゃないよね」


放課後、誰もいなくなった教室でわたしは机に突っ伏した。


「いいのよ、別に。お姫様抱っこくらいいくらでもしてあげるわよ」


あの後、わたしは5人の女子をお姫様抱っこした。


「ありがとね! 今度絶対奢るから!」なんて満面の笑みで立ち去られて特別悪い気はしなかった。


お姫様抱っこは女子の憧れるシチュエーション。女子なら一度くらい実際にされたい気持ちはわかる。


すごくわかる。かなりわかる。


「でも、わたしも『されたい』側なのよ……」


わたしだって同じ女。あなたたちが男子を好きになるようにわたしだって好きになる。あなたたちが憧れることはわたしだって憧れる。


わたしだって好きな人にお姫様抱っこされたいのだ。


ちなみに後でその話を聞いた樫野くんは「呼んでよ! 私の出番じゃん!」と、先ほどわたしにお姫様抱っこされていた女の子達を軽々と持ち上げ、それはそれはとてもいい絵だった。


「しかも、見られたしいいいい……」


あの時間、クラスの人はだいたいが教室でご飯を食べる。田崎くんだって例外ではない。


「わたしが、女子をお姫様抱っこしたの、田崎くんに見られたああああ……」


女としてどうなんだ。


もともと思われてないのはわかっていたけど、今日ので完全に女から除外されただろうな。


「恵……」


麻紀が何も言えないのがわかる。この子はもともと口がうまいわけじゃない。


麻紀が羨ましい。麻紀くらい小さかったらこんな悩みなんてなかったのに。


まあ、麻紀に言ったところで「私は恵が羨ましいよ! 小さいのなんて不便でしかないし、健くんと目を合わせるのだって大変なんだから!」と惚気られるのが目に見えてるけど。


言っとくけど、小さけりゃ身長は伸びる余地があるけど、一度でかくなったらおばあさんになるまで縮んでくれないんだから。


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