恋を紡ぐ
八つ当たりしても仕方ないこともわかっている。


「麻紀は? してあげようか?」

「え、いや、いいよ……」

「そっか、お姫様抱っこは彼氏にしてほしいもんなー失礼しました」

「そ、そんなんじゃないって……」


そう言いつつ顔を真っ赤にする麻紀を見上げて可愛いと思った。


いいなあ。恋する乙女の顔だ。


「前田さん、お待たせ。帰ろうぜー」


平坂くんが教室に入ってくる。


「健くん。あ、恵は……」


机に突っ伏したままのわたしを見ているのがわかって、顔を麻紀の方に向けた。


「気にしないで。わたし、まだ帰らないから。あ、平坂くーん、機会があったら麻紀をお姫様抱っこしてやってちょうだいな」

「め、恵!」


慌てた声を出す麻紀に手を振って二人を見送った。


付き合いたての二人を邪魔するほど野暮じゃないし、幸せになっていく二人を爆ぜろとか思わないし。純粋に幸せになってほしいと思っている。


それは本心だけど、今はわたしの心をえぐる。


頭が痛い。


なんでわたしってこうなんだろう。


わたしの気持ちは麻紀にしか言っていないし、表に出さないよう気をつけている。だからクラスのほとんどは知らないはずだ。


だからといって好きな人が見ているかもしれない状況で女子をお姫様抱っこして平気でいられるほどわたしは強くない。


本当だったら泣き叫びたいくらい嫌だ。好きな人には少しでも女として見てもらいたい。


もともと身長が高いわたしはそんなこと叶わないのかもしれない。それでも望みくらいは捨てたくない。


クラスメートの頼みと、自分の女としてのプライドを秤にかけらなくて、クラスメートの頼みを断りきれなくて自己嫌悪に陥る。いい子ぶっても誰かに好かれるわけでもないのに。


麻紀にも余計な心配をさせてしまった。


ばかなんだ。わたしはどうしようもないばかなんだ。


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