恋を紡ぐ
「あーあ、参ったな……」


その時田崎くんが教室に入ってきて、わたしは慌てて頭を上げた。


「あれ、片桐。まだいたんだ。珍しい」

「え、あ、ちょっと、勉強をしてこうとして…………ね」


そんなわたしの机の上には何一つ乗っていなくてなんて苦しい言い訳なんだと思った。


「ていうか、どうしたの。そんなびしょびしょで」


田崎くんは頭から水を被ったようにずぶ濡れだった。雨は降っていない。


「健にやられたんだよ。体育館の前でいきなり水ぶっかけられて……」

「ああ、だから迎え遅かったんだ」


一人で納得しているうちに田崎くんが鞄の中を漁ってタオルとTシャツを取り出した。


「ごめん、ワイシャツまで濡れたから着替えるな」


そう言って田崎くんはおもむろにブレザーを脱いだ。それからワイシャツのボタンを外して脱ぐ。


至近距離で男子の裸を見るのは初めてだった。


脂肪なんてこれっぽっちもなさそうな硬い背中に、胸が激しく鼓動を打ち付けた。


「まだ暑くて助かったーあいつ、冬でもやりそうだからな…………片桐」


替えのTシャツを持った田崎くんが振り向いた。


「そんな見られると着替えづらいぞー」

「え、あ…………ごめん、なさい」


ガン見していたことを自覚してわたしは慌てて目を背けた。


くすくすと笑う田崎くんはTシャツを頭から被った。


変態…………なんて思われたかな。


クラス委員なのに変態なんて、って思われたりしないかな。


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