恋を紡ぐ
怖いとばかり思っていた平坂くんがこんな笑顔を見せるんだと思うとドキドキした。


私だけじゃない、他の女の子にも見せたりしているのかなと考えたらすごく苦しくなった。


それを恵に話すと「それは恋よ!」と叫んだから慌てて止めた。


平坂くんは女の気配なんてまるでないしクラスの男子達の下ネタにもそうそう食いつかないのに、女の扱いに手慣れていると風の噂で聞いては簡単に気分は沈んだ。


昔から数学が恋人の私でも、高校生にもなれば男と女が付き合うことがどういうことを意味しているかを知らないわけじゃない。


当然赤ちゃんはコウノトリが運んでくるわけじゃない。


男と女が交わるということがどういうことかも知っている。


でもそれはあくまで知識として私の頭の中にあるだけで経験はない。そもそも数学とばかり向き合ってきた私が男子と関わることすらほとんどなかったから、実状は知らない。


親友の恵も人のことばかり優先する癖があって、自分も好きな人はいるくせに一向に進展の兆しがなくて半ば諦めてしまっている。


悪い言い方をしてしまえば、私の周りには男と女の恋愛に対してうまくいっているサンプルがない。だから私も知らない。


わかるのは、私と平坂くんが明らかに違う世界にいるということだけ。


そう自覚する度に息をするのが苦しくなる。楽になりたい。


楽になれることなんてあるのか。


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