恋を紡ぐ
一度失敗すると、持っていた緊張感が抜けてしばらく何かしようという気が起きなかった。


恵もそれを察してか、しつこく言ってこなかった。


恵は人の気持ちを汲んでくれて余計なことを言わないからありがたい。たまに暴走するけど、それも恵のいいところだと思う。


きっと、私のこの気持ちはふわふわとさまよっていつか消えてしまうんだろう。伝えることなくいつかシャボン玉みたいにぱちんと弾けて消えるんだろう。


仕方ない。彼に少しでも近づけたことが奇跡みたいなものだったんだから。これ以上高望みしてもどうしようもない。


放課後までにそこまで考えて、深く息を吐いて廊下を歩いた。


「平坂てめえ!」


男の叫び声が聞こえた。


遠くで喚き散らしているのがわかる。かろうじて聞き取れたのはそれだけだった。


まさかと思って体育館の裏をこっそり覗く。


そこには男が何人も群がっていた。


その中心には、平坂くんがいた。


喧嘩だ。


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