妬こうよ、そこはさ。【番外編】
煮物を作った彼女が、神妙な顔で俺を見た。


「味大丈夫? 薄い? 濃い?」


料理を作る度、二人とも必ず聞くようにしている問いかけ。


当然、毎回美味しい、ちょうどいい、とはいかなくて、話し合って二人の味を決める。


面倒臭くて迂遠でも、確実なのを頼みに、そういうやり方を取っている。


「俺としてはちょっと薄いかな。濃くするのは嫌?」


大抵は「へえ、こういう味付けなんだ」くらいの違いに過ぎないんだけど、たまに「ん?」と引っかかるくらいの強烈な違和感をもたらすことがある。


そういう、すぐには慣れなさそうな違いのときは、擦り合わせをする。


大抵、お互いに少しずつ譲って、じゃあこうしようか、と方針がまとまることが多い。


「うーん……濃いのは嫌かな」

「そっか。じゃあお互いこのままで」

「そうだね」


今回みたいに意見がまとまらなかったときは、保留にする。


無理に全部を細かく決める必要はない、というのは共通見解。


これまでがそうだったように、そのうち落ち着くところに落ち着くだろう、という楽観視で充分だと思っている。
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