ただよう、甘いヒト【完】
「はーあ。織ちゃんが美里だったらよかったのに」
「無理だよ失礼だな」
「じゃあ織ちゃんが俺のものだったらよかったのに」
「……それはできるんじゃない?」
「うん?」
「安城のものにしてもいいよ」
「……」
「あたしはもうずっと安城のものだったし」
あまりにさらりと言ってしまえたから、自分でも少しびっくりしてる。
安城が何を思ってああ言ったのかは不明だし、所詮酔っ払いの言ったことにこんな風に返すのは間違っているのかもしれないと分かっているけれど、ただ単純にそう思った。
安城はあたしのものではなかったけれど、あたしは安城のものだった。
「……どう? そろそろあたしに飼われてみない?」
振り向いて訊くも、彼は顔色ひとつ変えずにじっとあたしの瞳の中を覗く。
安城の黒目から感情は読み取れない。