ただよう、甘いヒト【完】
「美里の代わりなんか誰にもできない」
「……ん。そうかもね。……でももう1年だよ。あんたいつまでフラフラしてるつもりなの」
「……美里怒ってるかな。今織ちゃんのこと抱きしめてるの」
「さあね。でも死んだ人に遠慮することないんじゃないかな」
ちらりと振り返れば、安城は泣きそうに顔を歪めていて、ああこの人が好きだなと思った。
そしてこの人は今も、亡くなった彼女だけを大切にしているのだなとも。
あたしの言い方は少し冷たかっただろうか。でも本心だ。
「安城、すき」
初めて起きてる時に言った。
安城は特に驚くこともなく、じっと表情を変えずに辛そうなまま、あたしを見つめている。
俺も。なんて、安城は言わない。
だって安城が好きなのは、彼女だけだから。
安城は簡単にあたしを抱きしめてしまうくせに、嘘のつけないやつだ。思ってもないことは言わない。
いい人だなと思う。優しいなとも。