ただよう、甘いヒト【完】
「……なにそれ織チャーン。……超急展開だね」
「好きになったらだめだった?」
「別にいいけどさ」
安城はいつものようにくつくつと喉を鳴らして笑うけれど、やっぱりあたしには泣いているように見えた。
彼はじっとあたしを見つめたまま、大きな両手であたしの頬を包み込む。
安城は寂しかったのだ。
大好きだった彼女にいなくなられて。
まるで愛おしそうにあたしの頬を撫ぜてくれる安城の温かな手に目を瞑れば、彼はクスクス笑う。
「前から思ってたけど……織ちゃんて猫みたい」
「猫?」
「するするって、人の心ん中に勝手に入って来る猫」
それはあたしが安城に思っていたことだったんだけどなー。
なんか納得がいかない。
安城は酔った時にしかあたしのところへ来ない。
あたしのことを好きではないから。
だからキスもセックスもしない。