ただよう、甘いヒト【完】
「……ほんとだ、織ちゃんイー匂いする。風呂上がりの」
「安城は酒臭い」
「いーじゃん一緒に寝ようよ」
「絶対嫌。あんた酒臭いんだって」
全然酔ってないのになー。とかバレバレの嘘を吐いた安城に狭いベッドで抱きしめられながら悪態をついてみたけど、我ながら説得力がない。
ぽんぽんと後頭部をあやすみたいに撫でられて、その心地よさにうっかり睡魔に襲われそうになった。
安城の方はというと、半分寝てるみたいにスーッと息を立てていて、ちょっと顔を上げれば気持ちよさそうに目を瞑る綺麗な顔が間近に見えた。
あたしたちは付き合っていない。
安っぽい恋愛小説みたいにセックスだけする関係ってわけでもない。ついでにキスをしたこともない。何もない。いたってクリーンな関係。
安城は酔った時にだけ、あたしを訪ねてくる。
「……安城? ……寝た?」
彼がよく眠っているのを確認して、まあいいかと私も目を閉じた。安城の背中に腕を回して。
「……安城、すき」
きっと今夜は夢を見る。幸せなやつを。