ただよう、甘いヒト【完】
「あとシャワーも借りちゃった」
「……あれ、そういえば昨日着てたのと服違くない……?」
「前来た時織ちゃんのクローゼットにこっそり着替え置いてってたの気付いてなかったの?」
何を勝手に。全然気付かなかった。
まあいいけど。
くあ、と欠伸してぼんやり安城を眺めていれば、アニメはすぐに終わってテレビは切られた。
それから徐にこちらへ近付いてあたしの横に腰掛けた安城は、人懐こい笑顔であたしの顔を覗き込む。
「織ちゃん言い忘れてた」
「は? なにを?」
「おはよう」
「……おはよう」
そういえば言ってなかったっけ。
にこりと笑った安城は、あたしの髪を優しく撫ぜた。
安城は奔放な猫だ。
こんな風にあたしに笑いかけるくせに、今夜にはもう違う飼い主の元へ行ってしまう。
あたしのことなんか忘れて。別な女に笑いかける。
まあいいけど。