偽りの御曹司とマイペースな恋を


歩を職場近くまで車で送り届け会社へ向かう瓜生。

彼の職場は見上げるような高いビル。秘書たちに出迎えられ
すれ違う社員たちがペコペコと頭を下げていくのはもう流石に慣れた。
社長室に入り重厚な椅子に腰掛ける。

本来は養父が座るはずの椅子。
あるいは血のつながりのある従兄弟が座るはずの椅子。
だが今は他人であるはずの自分が社長の代理として座っている。

何時までここに居れば良いのだろう?

「おっはっよー。一路君」
「…おはようございます。思っていたよりも早かったですね」

愚痴っても仕方ないと仕事を開始した瓜生の部屋へノックもなしに
はいって来たのは養父。だから秘書も連絡をよこさなかったのか。
応接用のソファに座ってこちらに手を降っている。

「お帰り、久しぶりの日本はどう?歩と燃え上がったりしたでしょ」
「いきなり海外へ飛べだなんて、やっと戻れて安心してます。
それにしても市場拡大を狙うならきちんと下調べなりチームを組むなり」
「そんな怖い顔しないでよ。真面目な話とか眠くなるんだよねほんと」
「父さんがその場の勢いで無謀な事をするから、半年のはずが一年近くも足止めされたんじゃないですか」
「それで歩に会えなくて辛かったと。わかった分かった、パパが悪かったよ」
「……そういう問題じゃ」

話をしても無駄だとは思ったが。やはり無駄だった。がっくりと項垂れる瓜生。

この究極のマイペース養父が様々な分野で活躍し政界にまで影響力を持つという
瓜生家の現当主。ただ変な人なのではなくて、当然実力も備えて居るのだが。
少し前まで「学生って青春でいいよね」というだけで学校運営や理事をしていた。

好奇心のみが溢れるバイタリティと無駄なほど幅広い知識、そして豊富な財力。

ようするにすぐ欲しがる癖に速攻で飽きるお金持ちの子ども。

「悪いって思ってる。君に色々と押し付けて。反省したよ」
「嘘ですね」

それでも瓜生を引き取ってくれた養父で、一応「大事な息子」として扱ってくれる。

「そう言わないでよ。本当に反省した。だからね、一路君。君が喜ぶことをしようと思って」
「喜ぶ?……もしかして、やっと瑞季を後継者にするんですか?それならすぐにでも」
「ほらこれ。これを持って行ってらっしゃい」
「え?」
「場所はココ。ふふふふ」
「………え。ここは」
「君たちの未来に光あれ」

瓜生に封筒を手渡すと養父は足取り軽やかに部屋を出て行く。
何故だろう、彼がゴキゲンなときほどものすごく嫌な予感がするのは。

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