偽りの御曹司とマイペースな恋を
まさか会社に瓜生が来るなんて。
それも今後定期的に来ては雑誌の売上確認、
立て直しの企画の見直しやコスト削減を推し進めるという。
「……」
「……」
「……」
歩が帰宅すると既に瓜生は部屋に居て夕飯の準備中。
洗濯物も綺麗に折りたたまれてアイロンがけも完璧で
瓜生と歩のものと綺麗に分けられていた。
「お前、…あんなに怒られて大丈夫か」
「……うん。あれくらい平気」
「そうか」
別に何も悪いことはないのに何となく気まずくて。
歩は声をかけるのをためらいながらも相手が話してくれて答える。
怒られている様を見られたのは恥ずかしいというか、情けない。
彼には仕事で落ち込むことが多いなんて話してなかったから。
というか、相手が海外に居てロクに話す事も出来なかった。
「イツロ君こそ。どうして?うちの会社とそんな関係あったっけ」
「いや。ない。父さんが2,3冊本を出したくらい」
「そうなんだ」
社長とはパーティなどで顔を合わせ面識はあったようだけど。
それで会社が不味くなってきたので父に助けを求めたのも本当。
そこで父はどんな取引をしたのかは瓜生には分からないが。
あの悪魔の微笑みからしてロクなもんじゃない。
「着替えてこい。もう夕飯できるから」
「うん。今日は何かな」
「お前の好きな唐揚げ」
「だよね。やったー!」
歩は嬉しそうに微笑み部屋着に着替えるためにいったん自室へ。
リビングに戻ってくると綺麗に配膳された夕飯が待っていた。
「一時的とはいえ、会社で顔を合わせることが増えると思うんだ」
「うん」
「…名栖って、読んでいいか」
「いいよ。社長と普通の社員で居ようってことでしょう?わかってるよ」
頂きますをして食べ始める。と、気まずそうに瓜生が言った。
「気を悪くしないでくれ」
「しないよ?だってお仕事だもん。お仕事と恋愛は一緒にはできません」
「……」
「え?何でそんな嫌そうな顔?」
何故か見るからに不満そうななんとも言えない顔をする瓜生。
変なこと言ったのかな?歩は不思議そうな顔をする。
「いや。別に。……普通もうちょっと何か粘るだろ」
「何かってなに?」
「いいよもう」
「えー?」
悪いことを言った覚えはないのに何故か怒ってしまって
無言でご飯を食べる瓜生。
でも、歩がおかわりしたらすぐご飯を補充してくれた。
「……でも、男ばっかりなんだな」
「うん。皆いい人でね。飲み会とかも連れて行ってくれるんだよ」
「……」
「あ。また顔怖くなった。何を想像したの?イツロ君」
「……別に何も。ちょっとコスト削減についていい案が浮かんだだけだ」
「や、やめてね?人減らすのだめだからね!」