偽りの御曹司とマイペースな恋を
「そろそろ寝ないと明日起きられないぞ」
「もうちょっと。いい所なんです」
ご飯を食べて休憩をしてお風呂に入って。
歩はカバンから真新しい本を取り出す。待ちに待った好きな作家の新刊。
リビングのソファに寝転んで時間を忘れて読みふけっていた。
「駄目だ」
「あっ!まだしおり入れてないよ」
ひょいと奪われてバタンと本を閉じられた。
もうちょっといいじゃないと文句を言う歩だが彼はビクともせず冷静に。
後でちゃんとしおりを挟んでくれたのはよかったけれど。
まだ文句を言いたそうな顔をする歩だが結局は諦める。
彼は言葉で争ったって到底勝てっこない相手なのだ。
「電気消すからな」
「えー…まだ10時だよ」
歩が部屋に戻りベッドに座ってさあどうしようかと思ったら
見透かしたように問答無用で部屋の電気を消す瓜生。
「早く寝て早く起きる。基本的なことだ」
「イツロ君おじいちゃんみたい」
「……。そうか。分かった。お前が寝付くまで話をしてやろうと思ったけどやめた」
「するする!ごめんなさい」
ちょっと不機嫌な顔をしてそっぽを向いて部屋を出ていこうとする瓜生。
歩は慌てて彼に近づいて手を握り話そうよと笑顔でご機嫌を伺った。
彼はまったくの無言という訳ではないが多弁でもない。
過去含め自分の事をあまり話してくれないからこれはチャンス。
そして上手く行けば歩の部屋で一緒に寝てくれるかもしれない。
歩に引っ張られて部屋にはいる瓜生。
ベッドに入れと促されて彼女は布団に入る。が、彼は側に座った。
残念だけど側にいて話をしてくれるのはやっぱり嬉しいもの。
「夢が叶って本当に良かったな。この調子で目指すのは編集長か?」
「そこまでは考えてないけど。でも、早く一人前になって先生の原稿取りに行くの」
歩のいう先生とは彼女が好むマニアックなホラー小説の作家。
幼い頃からずっと好きで未だにその手の小説や漫画を買いあさる。
部屋はそんなグッズでいっぱい。
瓜生と住むようになってからは彼がこまめに掃除をして片付けて
だいぶマニアック具合は隠されてきているけれど。
「そうか」
「イツロ君は?このままおじさんの会社手伝うの?」
「俺はあくまで臨時。父さんが後釜を見つけるか瑞季がその気にさえなればさっさと降りる」
「なんだか少しもったいない気もする」
学歴は申し分なく、家も財閥と呼ばれる名家、彼自身のスペックも高いのに。
「すぐボロが出る。…俺は、何も出来てないから」
「……」