偽りの御曹司とマイペースな恋を
それぞれに夢があるんです。
イツロ君の夢はお爺さんの経営していた喫茶店を再開すること。
母親に放棄され、お爺さんの家でお店の手伝いをしながら住んでいたらしい
そのお爺さんが亡くなって同じあの施設へ来た。
「いいな。こういう感じのテーブルを置きたい。椅子はこっちのかな」
「じゃあじゃあ窓際にこれ飾って?」
「嫌だ」
「……絶対絶対おいてやるから」
平日も慌ただしく過ぎていくが瓜生の休日も同じくらい忙しい。
趣味と将来の為にと日々料理を研究、完成品を仲間で試食。
あとは自分で耕して作物を育てている菜園の管理。
他に最近では通販雑誌を眺めながら未来の店の間取りや内装を
あれこれと組み立て想像してメモする。
これは側に歩がいるからかもしれない。
家具やカフェの特集が組まれた雑誌を何冊も広げてはあれがいいこれがいいと
楽しそうに眺めている。歩もそんな彼の隣で一緒に想像して一緒に選ぶ。
何とかして店にホラーで邪なグッズを置きたいのだがことごとく却下されて不満そう。
「歩はどっちがいいと思う。俺はこういう明るいカーテンがいいんだけど」
「そうだな。私はもう少し暗い方が好きかも。こっちとか」
「そうか。それも落ち着いていて良さそうだな」
店の想像を膨らませているときの瓜生はどんな時よりも楽しそう。
それくらい彼にとって店を出すことは楽しみであり目標なのだろう。
歩はちょっとだけ嫉妬するけれどニコニコしている彼も好きだ。
「お店が可愛い感じだからメイド服とか似合うかも。変にこってない定番のやつで」
「え。俺、メイド服なんか着たくない」
「いや、あの、…イツロ君にじゃなくて…」
メイド服を着た瓜生。想像してしまった自分が辛い。
たぶん、彼も。お互いに微妙な顔をしている。
「お前か?お前も駄目だ」
「なんで?」
「歩は誰にも仕えなくていい」
「イツロ君のペットだもんね」
「…こんな偉そうなペットがあるか」
「ほほう。何ですと?」
「痛い。こら。腕つねるな」
拗ねた顔をする歩だがすぐに表情を変えて雑誌を眺める。
新しい物を買えば買うほどまた違う家具が紹介されていてどれもこれも素敵。
まだはっきりはしていないようだが瓜生はきっとお爺さんの店をそのまま使いたい。
土地も店も閉店してから手付かずでそのまま。
そうなると会社も歩とも距離が離れてしまう訳だが。