偽りの御曹司とマイペースな恋を



「ごめんなさい。全部取るから怒らないで」
「怒ってる訳じゃない、ただ」
「本当にイツロ君にも好きになってもらいたかったの」
「……」
「でも駄目だね。…諦める。……外してくるね」

ニコニコ顔から一転して疲れたような迷惑そうな顔をする瓜生。
歩は苦笑しながら立ち上がり自分が設置したものを全部部屋に回収した。
それらをベッドの上に置いてぼんやりと眺める。

施設に居た時から変わらず自分は変な子なんだな、と。今さら思う。

『ああ、歩?僕だよー』
「だれ?」
『ふふふ、ナイアルラトホテプの化身さ』

彼のもとへ戻ろうとしたら携帯がなる。
非通知設定から。
一瞬取るのをためらったがなんとなく出てみる。

「イツロ君の変態パパだ」

何でこの人は毎回非通知とか電話ボックスからかけてくるんだろう。

めんどくさい。

『変態は褒め言葉としてとっておこう。でさ、今日は暇?』
「暇じゃないです」
『そう暇ね。よかったー。あのね、俺の知り合いの作家さんがこっちに来るんだけど。
良かったら歩一緒に食事でもしない?出版社勤務の君なら美味しい話じゃないかな』
「作家さんですか」
『そう。羅具さんだよー』
「ら、羅具さん!?うそ!ほんとに!あの!有名な!」
『はっはっはー。ドヤア』
「…何時から?」
『そだね。1時間後くらいに駅集合でいかが?』
「分かりました。行きます」
『わかった。
一路君は眉を潜まして不機嫌になるだろうけど気にしないでいいからねー』
「……うん」
『あれ。どうしたの?もしかして喧嘩でもしたの?』
「してない。けど。イツロ君私の事嫌になったかも」
『それはナイナイナッシングねー。
彼馬鹿みたいに歩好き好き純情男だから。あの顔で』
「…でも、合わない所もあるし」

一生懸命アピールしても歩の趣味には嫌悪感を出すし。
こちらもプロ志向の彼ほどに料理の話にはついていけない。
母親とのほうが話が弾んで楽しそうなくらいだから。
どれだけ好きでもやはり合わない所は出てくるんだなと痛感。

『逆に聞くけど何で合わせなきゃいけないわけ?』
「え?だって」
『一応共存は出来てるんでしょう?
ゴミだなんだと処分されちゃうよりはいいとは思うけど。昔うっかり仮面やら玩具とか
机に置いてたら一路君に分別されて捨てられてた。悲しかった』
「きもちわるい」
『彼、頑固だからね。でも君の為に少しずつまげてくれてるともうよ。彼、馬鹿だから』
「イツロ君はバカじゃないです」
『馬鹿だよ。彼が見てるのは楽しかった思い出と歩だけだから。
もう枷は無い、前へ進めばいいのに。そしたらもっと楽しい事があるだろうに。
世界は広いのに。ほんと息子ながら馬鹿だなあ、と思うよ』
「バカって言った方がバカなんだから!」
『はいはい。それじゃ1時間後。歩。この前プレゼントした超マイクロミニのスカー』
「バカ!」

すっかり悩んでいたことを忘れ大声で叫んで携帯をベッドに投げつける。


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