偽りの御曹司とマイペースな恋を
社長は大変ですか?
「瓜生さんって長身でかっこいいわよね」
「え。ああいう感じがいいんだ?雰囲気とかちょっと元ヤンぽくない?」
「昔ヤンチャしてたのが今では敏腕社長なんて素敵じゃない?」
「まあ確かに。でもどうせ彼女居るでしょ」
「そうなんだよねぇ。どんな人なんだろ。やっぱりモデルみたいな人なんでしょうね」
「でしょうよ。隣に立ってても見栄えするような長身でスラっとした」
「こんな小さい出版社の事務やら受付じゃ無理か」
「だねえ」
朝の更衣室。
ははは、と笑いながら制服に着替えて持ち場へ向かう受付嬢さんと
経理事務のお姉さん。そんな2人の会話を息を殺して聞いていた歩。
仲が悪いとかいじめを受けている訳でなくて挨拶もするし会話もする。
ただ、最近彼女たちの話題が瓜生なので黙っているしか出来なかった。
「……イツロ君は不良じゃない」
彼は超のつく名門進学校にかよっていた普通の高校生、にしては
目立つ長身で目つきがきつい強面だったので不良とか喧嘩が強いと
勝手に思われてよく絡まれて鬱陶しそうにしていたのを思いだす。
ひとりぶつぶつと文句を言いながら編集部へ向かう歩。
「どうする?今日だったよな。会議」
「ああ。……瓜生さん、かなり見る目が厳しいからな」
挨拶をして席につくと先輩たちは深い溜息とともに落ち込んだ顔。
何時もなら何かしら言ってくる編集長も今日は静かにしているし。
耳を澄ませていると企画会議という言葉が聞こえてくる。
もちろんそれは歩も知っている事。だけど、ここまで顔色が悪くなるなんて。
それは歩はいくら社長でも瓜生なので怖がっていないけれど、
ほかの人たちはやはり恐れ慄いているから。
「売上向上に繋がる新しい企画とは言ったものの…中々シビアな問題だよなぁ」
「新規開拓といってもうちはホラー専門だし」
「いっそ別の分野にも手を出すか?」
「それこそ個性が無くなるぞ。うちはコアなファンが支えてやっと成り立ってるわけだし」
「まあそれもそうなんだが」
低迷する出版業界。特にマイナーな会社は年々他社にシェアを奪われつつある。
そこを打破すべく何か案を出せと言われて、イメージが全く無い訳ではないけれど、
手厳しい瓜生を納得させる決定打を打ち出せず悩ませている先輩たち。
歩も何かあれば企画書を出して欲しいと言われたが。
「目玉になるような若い先生を引っ張ってくるにも…」
「そこは瓜生さんと相談してみよう」
「そうだな」
「今日は昼から来るって言ってたな。よし、それまでに何とか企画まとめておくか」
「俺がしておく。お前は営業だろ」
「悪い」
先輩のように上手くはまとめられそうにない。
相手が瓜生だから余計に。
相談するというよりはただの世間話とか愚痴になりそうだ。
けど、自分も会社の一員なのだからここは奮起しなければ。
瓜生にだって社会人としてやっている所を見せるにも。