偽りの御曹司とマイペースな恋を



「瓜生さん、うちの雑誌読んで貰ったことありますか」
「ええ。何度か読ませて頂きました」
「そ、そうですか。…どう、でしょうか。その、感想は」
「人を選ぶテーマだと思いますので内容の良し悪しは判断つきかねますが、
一定数の顧客を掴んでいるのは理解しています。こちらの雑誌は歴史もありますしね」
「そ、そうなんです。ハガキも沢山来るんですよ!…えっと、今日はないですが」
「……。なるほど」

会議の為の広い部屋。机を並べ椅子を配置し資料を作って配る。
瓜生が居ると皆緊張した様子でいつものような雑談も無く真面目。
歩はお茶の用意をしたら定時まで電話番をしているように言われて

あっさりとその部屋から追い出される。

「意地悪された。こ、これは男女差別だよっ。…ひどいイツロ君」

口で言っても負けるのでメールに『バカイツロ!』とだけ送ってやった。
せっかく社員として頑張っている所を彼にも見せたかったのに。
といっても大した事なんてしてないし出来ないけれど。

その後。

電話を数件取り次いで、メールのやりとりを慌ただしくやって。
アポなしのフリーライターなどの来客の対応をして。

助けてもらいながらも基本一人なので

ちょっと泣きそうになりながらも定時を迎えた。

ソレよりはもう少し長く残っていたけれど、
会議室からは真面目に話し合っている声が漏れる。
自分はまだそこへ入っていけない。戦力外。

30分ほど粘ったがどうにもならず、皆に挨拶をして帰る。



「……お腹すくし何か買い食いしようかなぁ」

会議が終わってもすぐには戻ってこないと言っていたし。
目についたのは唐揚げ専門店。これくらいならいいだろうか。
匂いにツラれるように歩いて行く歩。

「買い食いすると怒られるんじゃない?」
「あ。瑞季君」
「仕事帰り?お疲れさま」
「だってイツロ君遅いから」

呼び止められて振り返ると瑞季がニコっと笑って手を振る。
唐揚げは諦めてそのまま帰るコースに戻る歩。

「不満そうな顔。そんなにお腹空いてるから買えばいいのに」
「お腹というか。イツロ君酷いの」
「なに?なにしたの?」
「嬉しそうな顔してる」
「そうでもないけど」

すごく仲良しという訳ではないけれど、瓜生とよく一緒に居る瑞季とも知り合い。
何故か歩を気に入っているらしくご飯やら映画に誘ってくれていた。
その度に瓜生が渋い顔をするので断っているけれど。

「私が夜一人で帰るのダメだからって会議に参加させてくれなかった」
「あははははは。彼らしいね」
「……私だってもう大人なんだから。社会人なんだから」
「そういうの関係なく君には過保護だから仕方ないね」
「……だいたい瑞季君がイツロ君の仕事増やさなかったらいいのに」
「あれ俺に矛先が来た」

社長なんてイツロ君がしなくてもいいのに、彼は別に夢があるのに。

「……」
「社長って結構大変だから。俺なんかじゃ無理だって。イツロ君真面目だし
頭良くてキレるから。オジサンだってそこを見込んで彼を養子にしたのかもね」
「……知らないです。もう。知るもんか。ハンバーガー食べる!」
「あ。今度はヤケになった。じゃあ、俺がおごるから」

ゆっくり喋りながら歩いていたら空腹が襲ってきた。もう何処かでご飯を食べたい。
おごってくれるならそれでもいいか。瓜生には適当に言い訳をしておけばいい。

『買い食いはだめだ』

なんて思って店に入ろうとしたら携帯が震えて。第一声がコレ。

「な、なんで分かったの!?」
『今の時間帯に夕飯食べてるからな。もう終わったから会社寄ってすぐ帰る。
もう少しだけ我慢しててくれないか』
「えー。せっかくおごってもらおうと思ったのにな」
『誰かと居るのか』
「瑞季君」
『そうか。…すぐ、行く』
「え?」
『そっち。すぐ行く何処だ』
「……あ。うん。えっと」

すぐに会えるのは嬉しいけれど、

その即答がちょっぴり怖いですイツロ君。


『瑞季にかわってもらっていいか』
「え?うん。いいよ」

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