偽りの御曹司とマイペースな恋を


「あのハゲ教師…むかつく」

ちょっとウトウトしただけなのに。罰として分厚い問題集を出された。
明日までにこれをやってこいなんて酷すぎる。学校に苦情を入れたい。
全部でなくても出来る限りでいいとか言いながら1問だけは許さんとか。
ひとり愚痴りながら図書館へ向かう歩。
家だとだらけるし図書館という場所が好き。


「ここは貴方みたいなオカルトちゃんが来る場所じゃないんですけど」

席についてすぐ視線を感じて。気にしながらも席を立ち参考書を取りにいく。
そしたらすぐに見知らぬ女性が来た。制服を見るとあの嫌な学校のだ。
もしかして昨日の奴の知り合いか。お嬢さまっぽい清楚な顔立ちなのに何か怖い。

「あの、今は別に雑誌持ってないし課題をしに来ただけなんで」
「涼二君に暴言を吐いておいてよくそんな事を」
「お言葉ですけど先に人を馬鹿にしたのは向こうです」
「それは貴方が悪いんでしょう?」

最初に人を馬鹿にしたのは向こう。それに反論しただけで何が悪い。
面倒になりそうなので口にはしなかったけれど。
その言葉が口から飛び出そうだった。必死に押さえる歩。ここは図書館だ。
出来るだけ静かにして、そして課題をしなければ。1問が駄目なら2問でも。

「とにかく参考書探したいので」
「次からは暗くて汚い地下室にでもこもりなさいな。じゃあねオカルトちゃん」

鼻で笑いはき捨ててその場から去ろうとする少女。
ムカツクけどこれで終われるなら我慢だ。我慢。

「おい」

そんな彼女の前に立ちふさがる男。

「でかっ」

歩は思わず見上げた。あと目つきが凄く悪い。
怒っているのかと一瞬思ったくらい。

「あ、あら。…瓜生君」
「随分酷いこと言うんだな」
「そ、そんな事ないよ。彼女が先に」
「相手は中学生だろ?」
「ごめんなさい。…ごめんね、それじゃ」

逃げさる女の子。先ほどまでの威圧感バリバリの顔は何処へ。
瓜生という男子が来たらあっという間に穏やかなお嬢さまの顔になって。
彼と自分にぺこぺこ頭を下げて逃げ去った。女とは恐ろしい生き物だ。歩は思った。
そして残る長身の瓜生とチビな歩。

「じゃ」
「待て」

でかさにビックリして忘れていたがこいつもむかつく学校の制服を着ている。
本当にここの所よく見る。まさか図書館さえもやつらの縄張りだったとは。
ここは逃げるが勝ちと踵を返す歩だったがすぐに呼び止められた。

「何ですか」

また文句だったらそこの重たい辞書を投げつけてやろう。

「教えてくれ。ここはどこら辺だ」
「は?」
「まよった」
「はあ!?」

散々馬鹿にされて怒りゲージが満タンになりかけていたのに。
今度は気力をすっぽりと抜き取られた。疲れる日だ。
呪われているのは自分かもしれない。瓜生を案内しながら思った。

「ありがとう。助かった」
「いえ。一本道でどう迷えるか貴方の脳みそが気になりますけど大丈夫です」
「そうだな。昔から比較的道に迷いやすい」
「んな馬鹿みたいにでかい図体してまあ」
「ああ…、何故か不利になる事の方が多い」
「どんだけ素直なんですか貴方」

普通キレるだろう。刃物のようにすぐキレるぜみたいなツラしといて。
そんな事を平気で言ってる自分も悪いけど。
この制服を着ている奴は皆性悪でムカつくやつしか居ないと思ってた。
だが瓜生はどこかすっとぼけていて悪意のようなものは感じない。

「素直?…変な事言うな」
「いや。まんまだと思いますけど…あれ」
「あっ」
「ヤナコッタさんのオムライス…?」

上を見ているのは首が痛い。ので下を向いたら彼の手にある本が見えた。
何かと思えば有名な児童書。しかも女の子が読むような料理の。
長身でいいガタイしといてこんな趣味が?歩はもう一度彼の顔を見上げる。

「…笑いたきゃ笑え」

彼は視線を逸らし恥かしそうにヤケクソ気味に言った。

「ここ図書館ですから。それに私もオカルトちゃんなんですよ」

どうせさっきの女の子の話を聞いていたんだろうからバレているだろう。
もともと隠す気もない。彼の趣味もちょっとどうかと思ったりしたけれど。
その事を言われて傷つく気持ちはよくわかるから。

「そうか」

笑わない歩に瓜生は少し嬉しそうな顔をした。

「じゃあ私課題あるんで。次迷ったらそのでかい図体でどうにかしてください」
「悪かったな」
「いえいえ。先にこっち助けてもらったし。おあいこってことで」
「ああ。じゃあ」

本を借りるためカウンターへ向かった瓜生。歩は自分の席に戻る。
世の中には色んな趣味の人が居るもんだ。人の事は言えないが。
物凄く時間を浪費したがこれで問題に取り掛かれる。解けるかは別として。


「遅かったな一路。また喧嘩でも売られてたのか?」
「違う」
「じゃあ迷ったのか。これで何回目だよ」
「10回目だ。…何でだ…?」
「お前にはもうカーナビでも渡しておくべきだな」



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