偽りの御曹司とマイペースな恋を
「お帰りなさい」
「ただいま」
「どうしたの?」
「ん?」
「なんか変だよイツロ君」
「え?!」
「ほらほら。そんな動揺しちゃってさ」
「何もない。ちょっと疲れただけだ。行こう」
「うん」
玄関を開けると可愛いエプロン姿でお出迎えしてくれた歩。
今にも飛びついてきそうなくらい嬉しそうに笑っている彼女。
瓜生は養父との会話をなんとなく思い出しそそくさと部屋に入る。
「父さんが言ってた言葉…何か凄い意味があるのか。…歩には聞けないしな…」
部屋着に着替えたら机に座りパソコンをつけた。
ネットの履歴は全て料理か菜園についてのものばかり。
当然ブックマークも同じ。ゲームもしない。アニメも観ない。
年頃の男が観るようなアダルトなものなどは頭痛と吐き気がするので避けている。
だが今回。ついに検索履歴に何時もと違うものが増えた。
といってもすぐやめてしまったけれど。
「イツロ君みてみて!オムライスに名前書いたんだよ!上手でしょ!」
「…あ。ああ。…上手だな…すごく。綺麗だ」
「大丈夫?何かよろよろしてない?調子よくないの?そんなに疲れちゃってるの?」
やっと部屋から出てきたと思ったらさっきよりも顔色が悪い上にフラフラしているイツロ君。
夕飯の準備を終えテーブルに配膳も終えた歩だが彼が心配でかけよる。
社長業はとても大変だというのは知っている。見てもいる。だからなおさら気になる。
「歩。聞きたいことがある」
「なに」
「もし。もし。……俺が欠陥がある人間だったとしても、それでも、…付き合ってくれるか」
「え?どういう意味?どっか悪いの?何か無いの?病院行かなくていいの?」
「いいんだ。それよりも答えてくれ歩」
やけに真面目に言うから歩は心配でちょっと泣きそう。
「うん。平気。たとえイツロ君が発狂して目から血が出ても
実は狂信者でもインスマス面でも大好きだよ」
「そうか。例えがさっぱりわからないけど、…ありがとう」
「ご飯たべよ。今日はね。頑張ったんだよ。可愛いでしょ?ね?ね?」
「美味そうだな。腹もへった」
「イツロ君は大盛りにしたの。でね。イツロって書いたよ」
「そ、そうか。ありがとう…何かの呪文じゃなかったのか」
「え?」
「食べよう」
食事は何時も通り残さず綺麗に食べてくれて後片付けもしてくれた。
帰ってきた時はすごく疲れている様子だったけれど家事をしている時の彼は
とてもリラックスしているようで生き生きしている。歩はそれを眺め。
「気が早いけど、今度のお休みはちょっと遠いところ行こうよ」
さりげなく近づいて皿洗い中の彼に後ろから抱き付く。
「何処がいい」
「んー。映画は特に面白いのなかったしな。他なんか買わなきゃいけないものないよね」
「そうだな。だいたいそろってるな」
「イツロ君がちゃんと管理してくれてるから快適です」
「何時もの癖だ。でも、お前と買い物に行くのも楽しいから次からは控えようかな」
「…ねえイツロ君」
「何だ」
「……お爺さんの家戻ってきたんだし、ちょっと掃除とかしにいかない?」
そこは本来瓜生の相続するはずだった祖父の土地と家。
それを知って施設から息子を連れ戻し、根こそぎ奪い取っていった実母が
最近なんの魂胆か返してきたのだという。
詳しくは彼が話したがらないので分からないけれど、とにかく戻ってきたということ。
「え」
「イツロ君の事だからお爺さんのお家をそのまま放置しようなんて思ってないんでしょ」
「まあな。でもやりだしたらお前に構ってやれないぞ」
凝りだしたら止まらない完璧になるまで黙々とやり続ける。
集中しているから話をするのも端的になるだろうし相手なんてとても。
きっと面白くない。つまらないと思うはずだ。
そんな性格を自分でも自覚しているし彼女も分かっている。