偽りの御曹司とマイペースな恋を
「…ん」
そしたら唐突にキスが来る。
本当に先の読めない人。
思いのほかしっかりとしたキスをされ唇が離れると少し寂しい。
「……キスは出来るのにな」
「だから何?何なの?」
「可愛いから。…あ。寝る前に言うんだったな」
「イツロ君ー!」
なのに彼はもう読書を再開していてちょっと悔しい。
「週末はお前の靴を買いに行こうか。だいぶボロボロだったから」
「そんなボロボロかな」
「詳しくはないが女の子らしくもっと可愛い靴をはけばいいんじゃないか」
「お仕事には可愛さは二の次でいいの。……可愛くなくてごめんね」
「大丈夫。お前は可愛い」
「……むぅ」
嬉しいような。悔しいような。
複雑な思いを抱きつつ。
難解な読書にいそしむ彼氏の腕にくっついて隣で解説をした。
それでも受け入れがたいお話のようで彼は終始渋い顔をしていた。
「そこまで焦って気にしなくていいか。今すぐどうこうするわけでもないし」
「何ブツブツ言ってるの?」
「びっくりした。居たのか歩」
「居ました。チビで悪かったですね」
「そんな事言ってない。…ほら、髪乾かすからこっちこい」
「うん。イツロ君のお膝げーっと」
歩の風呂上りは何時も髪が半乾き。
長い髪が面倒なのと彼に乾かしてもらうため。
最初は維持が面倒だからと短く切っていた髪。
でも、瓜生に待たされる時間が長すぎてその抗議のために伸ばした。
これくらい貴方に待たされてるんですけど!と怒ってやるためのロングヘア。
でも今では瓜生にセットして欲しくて面倒でも維持している。
先に風呂を済ませリビングにあるソファベッドに座っていた瓜生。
何か怖い顔でブツブツ言っていたが歩が近づくと何時もの様子で手招きする。
その膝に座って髪を乾かしてもらう時間も好き。
「……」
「どうしたの?」
「え?」
「また黙っちゃった。…キスする?」
「…いや。いい。……なんか、今だと違う事もしそうな気がする」
「いいよしても」
「馬鹿。ほら。前向いて。乾かせないだろ」
「…はぁい」