偽りの御曹司とマイペースな恋を



「イツロ君大丈夫?」
「…歩?」
「心配したんだから。メールしても電話しても返事何もないから」
「ごめ……うっ」

歩に起こされて目を開けたものの激しい頭痛と吐き気に襲われ喋る事が出来ず蹲る。
あれから自分に何が起こったのか覚えて居ない。

ただ瑞季に強引に連れて行かれて酒を飲まされたのは覚えている。

それからどうなった?分からない。とりあえずゆっくりと起き上がる。
時間は深夜。そとはまだ暗い。
寝ていたのはベッドではなくて何故かリビングの絨毯の上。

「はいお水」
「…あぁ」

何とかソファに座って歩から水を貰い飲み干す。

「お酒飲んだの」
「らしい」
「覚えてないんだ」
「ない。…瑞季に連れてこられて。それで」
「…イツロ君胸ポケットになんか入ってる」
「え?」

必死に思い出そうと酷い頭痛に悩まされながら考えていると
歩の視線が胸ポケットへ。そしてそれを引っ張り出した。

「パンツだ」
「…なんで」
「イツロ君。そういうお店で飲んだの」
「そういう?」
「女の子がパンツ脱いでポケットに入れるようなお店」
「そんな店あるのか」
「とぼけて」

歩はその紫のレースパンツを握り締めたまま怒ったような顔をして睨んでいる。

「…知らない。覚えてない」
「でもこれ」
「痛い…歩、薬箱をもってきてくれないか」
「わかった」

酒臭くて昨日の記憶がなくてポケットには女のセクシーなパンツ。
歩としては何があったのか瓜生を問い詰めて怒りたいのだろうが
今の彼がそんな話が出来るような状況でない為にそれを控え薬箱を持ってくる。

「…話は後でしよう…今は…寝てもいいか…」
「うん。寝て。ベッドまでいける?」
「大丈夫だ。…ごめん」
「ううん。話は後で聞くから」

薬を飲むとフラフラしながら着替えもせず寝室へ去っていく瓜生。
歩はため息をして、自分の部屋へ戻る。

それから何時間か経過して。


「飲むか。二日酔いと疲れに効くハーブティ」
「私別に二日酔いじゃないもん」
「そうだったな」

いつもの様にはいかないがそれでも歩よりは先に起きて
ご飯の準備をしていた瓜生。
歩にはさっき作ったというイチゴジュースをくれた。

「それで。このマユミちゃんって誰なの。イツロ君浮気しちゃったの?」
「瑞季に引っ張られてそういう店に入った。女が一杯来て酒を飲まされて
3杯目以降は何も覚えてない。俺、あんまり強くないんだ。すぐ倒れる」
「…ふぅん」

飲んでいると隣に座る瓜生。
パンツと名刺まで出てきたのに悪びれる事もなく
淡々としている所を見るに嘘はついていないのだろう。

「それより悪かった。何も出来なくて」
「いいよ。イツロ君すごい疲れてるみたいだし、お付き合いもあるんだよね」
「え」
「ゆっくり休んで。顔色もあんまり良くないし。お仕事大変なんでしょ?私も少しは空気読むよ」

浮気じゃないなら別にいい。本気でないなら。
会社の先輩も付き合いだなんだとオネエチャンの居るお店へ行っているらしいし。
お父さんも飲み会とやらで帰りが遅い日があったし。

そこでいちいち目くじらを立てるのも子どもっぽい。

それよりも、部屋に入って倒れている彼を見たとき
何かの病気かと思って血の気が引いた。
酒臭いからすぐに二日酔いだと思ったけれど。それ以上に顔色がすごく悪くて。

社長の仕事はとてもキツいようだから、不安になる。

「浮気なんかしてない。歩以外の女に興味ない。あんな化粧臭い連中。
ちゃらちゃらしてニヤニヤして勝手に人をベタベタ触ってくるような気持ち悪い奴なんか」
「疑ってないよ。イツロ君嫌いだもんね、そういうの。分かってる。疲れてるのに大変だね」
「最近仕事が忙しかったからな」
「お休み貰ったほうがいいと思うな…」
「そう、だな」


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