偽りの御曹司とマイペースな恋を
もう離れたくないんです。


歩は久しぶりに実家へ帰ることにした。
瓜生が居ない時はちょいちょい帰っては夕飯を食べていたけれど、
帰ってきてからは電話もたまにしかしていなかった。
そこで母親が電話で「お父さんが寂しがっているから夕飯一緒に食べない?」と
誘ってくれたのもあるし、久々に顔を見たいとも思って。

瓜生に電話したらそのまま泊まって来るかと聞かれたけれど、ご飯だけにした。


「歩、いいか。お父さんは何時もいつまでも永遠にお前の幸せを願ってる」
「……」
「お前が幸せならそれでいい」

仕事場からそのまま家に帰宅。バスと徒歩で結構時間がかかったけれど、
家に入るとお母さんが笑顔で出迎えてくれて、夕飯は歩の大好きなから揚げ。
ホクホクと食べ続けていたら父が帰ってきて、
何やら深刻な顔をして席につく。間をためにためて、何をいうのかと思ったら。

「……」
「だがしかし彼氏も同棲も早すぎる。せめてこう、お友達にならないか?」
「お父さんスーツ脱いでから座ってくださいしわになるから」
「母さんも座ってくれ。ちゃんと話をしようじゃないか歩」

何時もの御ふざけな顔ではなく真面目な顔だ。
今まで親に怒られることなんてなかったから、歩はちょっとドキドキ。
もちろん悪い意味で。

なんとなく父親に彼氏というか瓜生の話しは駄目なのは分かってたけれど。

まさかこうくるとは。歩は言葉が出ない。

「逆にお聞きしますけど、彼の何が気に入らないんです?」

かわりに歩の隣に座った母が尋ねる。

「気に入るいらないじゃなくてだな。そもそも交際というのが歩には早いんだ」
「まだ早いって、もう成人してお仕事だって。それに私だって歩くらいの歳には」
「その話はしなくていいって言ったろ!」
「お父さん声が大きいですよ。歩が怖がるじゃないですか」
「あ。ああ。すまん。…いや、その、とにかくだな。若い女の子が同棲っていうのは」

多分に娘をよその男に取られた嫉妬もあるのだろうが、
歩を実の子と変わらぬ大事に大事に過保護なくらいに大事に優しく育てきた。

それが今までそんな兆候なかったのにいきなり彼氏が出来ましたなんて言われて。
おまけに就職と同時に同棲しますと出て行って。

反対も何も受け付けず無理に押し流されるように今まで黙認してきたけれど。

娘が男女のことなんで分からないままに流れとかで付き合っているのなら
それはとても危ない事ではないだろうか?

「…いいおともだちってどういうの?」

やっと言葉を発する歩。

「そ、そうだな。たまに話をしたり買い物に出たりする」
「それだけ?ゲームとか」
「男と2人でか。いや。3人でだな。実果ちゃんとか入れてだな、それでやる分にはいい」
「……」

じゃあキスは?

それ以上は?

なんて聞いたらこの流れだと絶対反対される。
事態がさらに悪いほうへ行く。
それくらいの予想は歩でも出来る。だから何も言わなかった。

「お父さんは歩ちゃんが一路君に取られちゃって妬いてるのよ」
「心配してるんだ。歩はまだ若いのに…」

瓜生のことはきちんと両親に紹介しているしたまに家に呼ぶ。
とても優しい人と娘はいい、礼儀正しくて凄くいい子なのと妻は言ったけれど。
あの顔面の怖いインパクトがでかすぎてどうにもいい子には見えなくて。
言葉は悪いが騙されてないかとちょっと思ってしまったりする父親心。

「心配してくれてありがとう、…でも、もうイツロ君と離れるのは嫌なの」

友達だったらここで親に反発したり怒って部屋に戻ったりするだろうが
歩は出来ずにいて。泣きそうな顔をしながら俯いた。

「歩ちゃんにとって彼は本当に大事な人なんです。
お父さんも本当は分かってるんでしょう?」

瓜生との過去の話をちゃんと母にして、母は父にそれを話す。
だから皆もう彼と娘のつながりを知っている。

引き離す事が安易でない事も分かっている。

なのに。どうしてこんなことを言うのだろう。
歩は悲しい気持ちになってから揚げを食べない。


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