偽りの御曹司とマイペースな恋を


父親が瓜生と離れろと言っているなんて彼には言えなくて。
仲が悪くなってしまうのも怖くて。どちらも大事で。
でも一人じゃどうにも出来そうにないから電話をかける。


『ふうん。おじさん意外に頭固いんだ』

相手は歩にとって唯一といっていい、中学からの友人である実果。
彼女に先ほどの出来事を喋った。

「どうしよう」
『ど、どうしようって。あんたが決めるこってしょうに。え。なに?あんたまさかお父さんが
駄目っていうから彼と別れるなんて思ってないよね?何時の時代よ冗談でしょ?』
「……」

でもお父さんがあんなに怖い顔をして帰って来いと明言はしなかったが
お友達にしとけとか言うくらいだから、そういう意味ととっていいのだろう。
そんなままで見ないふりで父親を無視はしたくない。

『おいおいおいおいおい。歩いいかい。親は子より先に死ぬんだよ。
親を優先させたってしゃーないじゃん。彼氏好きなら別れる事ないってば』
「別れるとかそこまで思ってないけど。でも、…お父さんいやなままって辛いから」

彼氏からいいお友達になっても全く会ってはいけないわけじゃないし、
キスとかはこっそりやればわかりっこないし。とかついついそんな事を考える。
そうなると同棲も解消しないといけなくなるけれど。

実果は大いに呆れている。なんでそこまで親中心に考えちゃうかな?と。

『じゃあさ、総長に別れましょういいお友達でいましょうって言えるの?
言えたとしてもだよ。その台詞かなり傷つくよ相手。それわかってる?』

想像してみる。

「……やだ」
『ほらみろ』
「あとイツロ君は総長じゃないから」
『はいはい』

頭では想像できてもきっと本人を前にしては言えない。
せっかく再会して、また居なくなって、今度こそ離れないと思ったのに。
歩から恋人同士であることを解消するなんて。

ということは他の誰かがソレになる可能性が出てくるわけで。

彼の隣に別の誰かが立つなんて。

そんなの嫌。ぜったい嫌。

別れるとかやだ。言うだけでもやだ。父親の為でも、やだ。

「じゃあどうしよう」
『お得意の邪神さまに祈れば?』
「わかった。失敗したら実果の体が四方に裂けちゃうけど、やってみる」
『何で私なの』
「……お父さんともっとちゃんと話をしてみる」
『そんな律儀になることないと思うけどね?ま、頑張りなよ』
「うん。ありがとう。ごめんね」
『いいよ。今度何かおごってね』
「うん」

瓜生への気持ちを確認して、父のことを思い深い溜息。
自分を育ててくれて愛してくれて、
いい子でいい関係でいたいけれど、これだけは無理そう。



< 42 / 72 >

この作品をシェア

pagetop