偽りの御曹司とマイペースな恋を
VS!
瓜生が歩の両親に会うのはこれが初めてではない。
学生時代に運命的な再会をして、また仲良くなって。
今度は付き合うようになってから両親に紹介をしている。
何かと父は歩の交際、特に男の話になると無視をしたり
逃げたりするので事前に何も言わず連れて行ったのだが。
彼の風貌を見て腰を抜かし家に不良が押し込んできたと
警察に通報しようとした。
そんな過去を振り返りながら歩は定時を今か今かと待っている。
「そんな何度も時計みちゃって。あれかい?デート?」
「そんな感じに見えました?」
「見えた見えた。ここじゃおっさんばっかでつまらんよな」
「そんな事はないですけど。あ。これ、新作のりんごちゃんですか」
「娘に買ってみたが嫁さんにはふざけるなとキレられてここに置いてる」
隣でパソコンに向かい構成をしていた先輩が声をかける。
その机の上には禍々しい歯をむき出しにした真っ赤なリンゴのキャラクター。
「可愛いのに」
「だよなあ」
瓜生に見せても奥さんと同じようにふざけるなとキレそう。
別にいいもん、と歩は勝手に想像して拗ねてみせるが。
大好きなものが大好きな人に理解されないというのは
こうも寂しいものか。
「お疲れ様です」
そこへ瓜生が編集部へ顔を出す。
「お疲れ様です、今日は……?」
来るとは聞いていなかったし時間も遅い。
まさか今から会議なんてことはないだうし。
何より今日は歩と一緒に彼女の家へ行く日。
「近くまで来たものですから。これ、差し入れです」
「……あ、ありがとうございます」
「それと、前回頂いた企画書。幾つか使えそうなものがあったので次回の
会議の際に焦点を絞って練り直しましょう、きっと良い物が出来ますよ。
未来性のある企画にはこちらとしても出来る限りの援助をするつもりでいますから」
「は、はい。分かりました」
恐縮している先輩に袋を渡して瓜生は出て行く。
歩はぽかんとそれを見ていたけれど、時計を見て定時を確認。
とまっていた手を動かして急いで途中の仕事を終わらせて帰る準備。
途中他の先輩にもデート?とからかわれて、笑ってごまかす。
「瓜生さん」
「はい」
廊下をゆっくりと歩いている後ろ姿。急いで追いかけて声をかけた。
「今日はどうなさったんですか?お忙しいでしょうに」
「事前に知らせず普段の様子を見させて頂くのもいいかと思いまして」
「なるほど。抜き打ちチェックでしたか」
「名栖さんは若干口を開けてパソコン作業をするようですね、あれはどうかと」
「あ、あれは。あれはちょっと考え事してただけです!」
「可愛かったけどな。目の前の仕事にばかり集中してないで周囲を意識をしないと」
「……はぁい」
「更衣室行くんでしょう?外で待っていますから、ゆっくり準備してきてください」
「はい」
家に行くだけだからおめかしもお化粧もなにもなしでいいだろう。
瓜生からしたら緊張する時間だろうけど。
何か自分もできたらいいのに、でも、何が出来るか分からない。
「瓜生さんって本業だってお忙しいのに大変ですよね」
「いえ、それほどでは」
「そんな謙遜なさってぇー」
準備を終えて1階へ降りてきたら瓜生が受付嬢さんに捕まっていた。
助けてやろうと思ったけどなんだかイライラっとしてしまったので
その横を通りすぎてやった。
「ちょっとくらい助ける気はないのか」
「助ける?イツロ君の鼻の下がすっごい長かったけど?」
「長くない」
「そうかな」
彼の車の側で待っていたら早足で追いかけてくる瓜生。
「これからお前の両親に会うのにそんな暇な事するか」
「…わかんないもん」
「歩」
「ごめんなさい。頑張ろうね」
「……ああ」