偽りの御曹司とマイペースな恋を


あまり長い時間ふたりきりで部屋に居たら父親が怪しむので。
それと、お腹がすいたので。

「一路君が来てくれると家が賑やかになっていいわね」
「そんな。俺は何も」
「あらテレることないのよ?可愛い所もあるのね?」
「そ、そんなことは」
「お母さんイツロ君苛めないで」
「はいはい。ヤキモチやきさん」

母親の「ごはんですよ」の声に1階へ降りる。
歩にとっては何時も聞いていた台詞だが、瓜生には新鮮だったようで
ちょっとうれしそうなのがまたヤキモチをやく。

父親はテレビを観ていたが歩だけでなく瓜生の登場に若干焦り気味。
逃げようとしたが歩と母親に引きとめられて結局は着席。

「美味しい。やっぱりかなわないな」
「そんな事無いわ。一路君の料理も美味しいもの。ね。歩ちゃん」
「うん。美味しい!イツロ君は将来お店開くんだよ」
「歩」
「そうなの。通わせてもらうわね」
「夢だけで。まだ、具体的には」
「えっと。未来のオーナーさん?私こうみえて結構接客は得意なんですよ?
こんなオバサンでよかったらウェイトレスなどいかがでしょうか」
「そんな、勿体無い言葉です。ありがとうございます」

父親が若干ほだされたので空気が重くない。
けど、妻と娘は瓜生にばかり話しかけるので楽しそうではない。
ゲストだから新鮮で、彼氏だから嬉しいから仕方ないのだろうが。
父親は無言で仏頂面で黙々と食べる。

話をふってくれたっていいのに。
ちょっとだけ許してやったのに、特に歩。
もう少しこう、父親に笑顔をみせてくれてもいいはずでは。

といっても瓜生とは話しづらいものがある。
やはり父親としては娘の彼氏には頑固でいたい。

「私も手伝いするよ」
「お前にもやりたい仕事があるんだ、俺にそんな気を使うな」
「でも」
「そんな冷たい言い方しないでくれるか。歩は君を思って言ってるんだ」
「お父さん」
「この子をちょっとでも傷つけてみろ許さんからな」
「すみません…そんなつもりでは」
「気にしないで。これも父親の嫉妬なんだから」
「イツロ君に変な事言ったらお父さんなんか嫌いだもん」
「あ、歩ぅうう!」

さっきまで怖い顔だった父親が娘の言葉でちょっと泣きそうな情けない顔に。
母親に慰められながらその場は収まって。それぞれが帰る時間となった。
父親は泊っていけと言ったが歩はヤダと即答しまた泣きそうな顔になっていた。



「言い方が悪かったな。俺はただお前に自由にしてほしいだけだから」
「わかってる」
「そうか」

帰る車内。
といってももう車は止まっているし目の前にはもうマンション。
けれど歩は車から出ないし彼もそれをどうとは言わず会話が続いていた。

「お父さんも認めてくれたようなものだし、お母さんはイツロ君のこと
息子が出来たみたい!とか言ってすっごく気に入ってくれてる。
だから、もう…家族みたいなものだよね」

ニッコリ笑って瓜生を見る歩。

「…複雑、だな」
「え?嫌だった…?」
「嫌じゃない、ない、けど……」
「なに?」
「息子ってことは。…あれ、だろ」

つまりその、一緒になる的な。

「あ。兄妹になっちゃうってこと?」
「いやそうでもなくて」

ダメだ分かってない。

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