偽りの御曹司とマイペースな恋を
「歩から聞いたわ。あの子が働いている会社の建て直しに
協力してくれているって。お父様にも感謝しないとね」
「いえ。俺は別に、なにも」
歩の就職の話はちらっと聞いただけで、
詳しい話は海外から戻ったばかりで本当に何も知らなくて。
これから聞いていこうとしたら養父が勝手に援助なんてしだして。
正直、最初は仕事を増やされて面倒だと思ったりもしたけれど。
「念願だった出版社に就職できて大喜びだったから、それがいきなり倒産とか。
あまりにも可哀想だから、…よかったわ」
「父が作家もしているので、そのツテで」
「そうそう、お父様は前に会った人ね。あの、金髪の」
「はい。すいません、驚かれましたか」
「少しね。でも悪人には見えなかったから心配はあんまりしてないの」
正直な所、素直に養父について話せないどころか褒められないのが辛い所。
でも歩の母は嬉しそうに笑っているのでごまかすように瓜生も笑っておいた。
「ありがとうございます。歩の事はちゃんと守ります。絶対。危ない目にはあわせません」
「ふふ。君は本当に真面目ね。そんな危険なところじゃないでしょうに。
でもそれくらいの気持ちで居てくれて嬉しいわ。私はあの子の為なら何でも出来るもの」
「……」
「覚悟を持っていてくれる貴方になら大事な娘を託せるものね」
ニコっと笑う母に瓜生は言葉が出ず、ただこくりと頷くばかりで。
彼女はまた声に出して笑っていた。真面目だね、と。
「ニヤニヤしちゃって」
「妬かないの。歩ちゃんに作ってくれたんだから」
「だってさ。2人でいてもあんな嬉しそうな顔しないんだもん」
「彼にはお店を出すって夢があるんでしょう?本気で取り組んでる証拠じゃない」
「応援、しなきゃだめだよね。イツロ君がんばってるもんね」
「そうそう。応援してあげて。…繊細な人みたいだから」
「え」
「さて。いじけちゃったお父さんの所へ行ってくるわね」
2人を監視し見つめているのにも飽きてテレビをみていた歩。
母に宥められて立ち上がり瓜生の下へ向かう。母は父の元へ。
歩と同じようにいじけてしまって庭の手入れに出て行ったままだった。
「歩」
「もっと食べていい?」
キッチンではまだ何やら1人で作業している瓜生。
歩はそっと近づいてその背中に頭をコツンと当ててみる。
さっきまで不機嫌な態度をとっていたから幾分か恥かしい。
「ああ。でも、気に入らなかったんじゃ」
「そんなんじゃないの。…イツロ君が構ってくれないから拗ねてただけ」
「お前、昔もそんな事あったな」
「あったっけ」
「あった。図書館で俺が料理の本読んでたらいきなり黙って。機嫌悪い顔して」
「イツロ君が意地悪して話しかけても無視するからだよ。ぜったいそう」
「仕方ないだろ。集中してたんだ。お前だって意味不明な本読んでる時は俺の話し聞いてない」
「意味不明じゃないもん」
そのままの態勢でじゃれてみる。彼からは特にそれに対する返事は無い。
ただ黙々と手を動かして作業していた。何かはこちら側からは分からない。