偽りの御曹司とマイペースな恋を
「じゃあ、味はそんな悪くなかったか?」
「うん。イツロ君の作るものは何でも美味しい」
「そうか。よかった。お前全然食べてくれないから、ちょっと落ち込んだ」
「ごめんね。ね。今何してるの?片付けなら私も手伝う」
「さっきの、何処が悪かったのか考えながら作り直してただけだ」
「そ、そうなの?美味しいから…それも食べるから」
「無理しなくていい。これは瑞季にやる」
「駄目。私の」
「分かったからそう押すなお腹痛いだろ」
「いいの」
「痛いのは俺だぞ?」
「いいの」
「しょうがないな。ほら、片付け手伝うんだろ?エプロンして来ないと汚れるぞ」
「わかった」
結局は仲良く2人でエプロンして片づけを終えて機嫌を直した父親をまたイラつかせたという。
お昼ごはんを一緒に食べてのんびりと過ごして。土産を持たせてもらって夕方になる前にはと
家をでる。父親は泊まっていけばいいのにと最後まで言っていたが母にいわれ渋々了承した。
「どうですかお父さん。一路君、いい子でしょ?」
「まあなあ。歩も凄く楽しそうだからいい…わけない!俺は認めないぞ!」
「意地張っちゃって」
「いいんだ。俺は最後まで徹底抗戦するぞ!」
「頑張ってくださいね」
笑う妻に落ち込む父。でも、やはり素直に娘の恋人なんて認められない。
ヤンキーのボスみたいな凶悪な面構えだったとしても根は真面目でいい青年であると
頭ではわかっていても。歩が心底甘えてべったりなのを見るとやはり嫌で許せない。
何時までも娘の1番でありたいと思う複雑な父親心というやつだ。