偽りの御曹司とマイペースな恋を


軽快な音をたてながら台所で材料を切っている瓜生。

「私もね。私もイツロ君に謝ろうと思って。それで。…料理の本買って来たんだ」
「そうか。ありがとう」

歩は材料を切る瓜生の背中にぎゅっとくっついて離れない。

「そうじゃなくて。私が作ろうと思って。いっつもお母さんに教えてもらってたけど
今日は本見てちゃんと作ろうって思って」
「…そっか。でも腹へったろ。俺が簡単にすぐ作るから」
「……」
「腹減ると気持ちも滅入るよな。力もでないし」
「……」
「…歩」

移動すると彼女も一緒に移動してくっついたまま。
お互いにかなり動きづらいと思うのだが。

「……」
「そんなくっついても何もないぞ」
「……」

まるで母親に怒られた後の子どものよう。くっついて離れない。

「…ほら。歩。火を使うから危ない、離れてろ」
「……」
「席ついて待ってろ。さもないとグリーンピース山盛り乗せるぞ」

瓜生の言葉に即座に反応何時もの席に座る歩。
それを見て少し笑い手早く夕飯の準備を終える。

「…明日はこれ作るの」
「いいな。美味そうだ」
「材料も買って来たの。だから。楽しみにしててね」
「ああ。する」
「……遅くなってごめんなさい。分かりやすい本見つけたくて」
「いいよ」
「次はちゃんと電話する」
「気にしなくていい。お前はもう成人した大人だ。俺はお前の親でもない」
「…かれし」
「ああ。鬱陶しい彼氏」
「やだ」
「ごめん」
「イツロ君はただ守ろうとしてくれてるだけだもんね。昔と何にも変わらない」
「…変わった、いろいろ」

見たくないものも見たし、やりたくない事もした。
純粋に将来への夢を見ていたあの頃と違う。
それを歩にすべて語る気はないけれど。

「決めた」
「ん」
「私がイツロ君を変えるの。私の好みに」
「…え?」
「で。イツロ君もビシバシ私を変えて、それでオアイコね」
「え。いや。俺は別に」
「決まり。これからもビシバシ行こうね。カップルは衝突あってこそって実果もいってた」
「お前に不満はない。ただ心配なだけで…」

それがたまに変な方向へ暴走する。やはり自分は何処かおかしい。


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