偽りの御曹司とマイペースな恋を
ずっと



何時も静かな所で座ってじっとしている小さな小さな女の子。
施設の人が話しかけてもただ軽く頷いて何処かへ移動してまた座る。
彼女と同じ世代の子よりもずっと小さい。

その所為か他の子たちは無視をするつもりがなくても

いつの間にか存在を忘れてしまう。

「あ。ごめん居たんだ」
「…うん」
「これ読む?」
「ううん」
「じゃあもらうね」

図書室で本を読んでもコソコソしているから他の子に取られる。
先に手にしたのは彼女でも。
それを無言で見送り、また別の場所を見つけては座っている。
その繰り返し。誰も気にもしない。

本人もそれで感情を表に出したりはしないから。
何を言われてもされても、無視されても

何も無かったようになって。

「それあいつが読んでた本だから」
「でも」
「いいから。返せ」
「…わかった」

様子を見ていた少年は本を取り返すと

彼女が隠れてしまった場所へと移動する。

「ほら」
「…イツロくん」

あまり表情をかえない少女がニコっと笑う。

「読めよ」
「だいじょうぶだよ。夜よめるもん」
「ばか。聞こえたらどうする」
「ごめん」

彼女に本を渡し隣に座る。
いいのに、と言いながら何処か嬉しそう。
そんな彼女をみて少年も少しだけ表情を緩めた。

「おやつ集まったか」
「ちょっとだけ」
「また他のやつに取られたのか。仕方ないな。俺の分けてやる」
「いいよ。ちょっとだけでたりるもん」
「飯もあんまり食べてないし。そんなんじゃ体こわすぞ」

ただでさえ壊れてしまいそうな華奢な体なのに。
少年は心配そうに頭をなでてやる。


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