偽りの御曹司とマイペースな恋を
これからも
仕事のやり方について毎回不機嫌な歩を見て
瓜生なりに何か思うことがあったのだろうか。
休日を明日に控えた夜。
「歩。久しぶりにどっかドライブでも行かないか」
なんて唐突に言い出す。
「ごめん明日はちょと遠出するんだー」
「遠出?どこだ?」
「電車で30分。徒歩10分のおっきなイベント会場でございます」
瓜生の休日はだいたい料理や畑に費やしてている事が多い。
もちろん歩とも一緒に過ごしているけれど。だからてっきり今回も
午前中は畑に行って昼からは本屋めぐりとかだと勝手に思っていた。
「イベント」
「うん。イベント。毒りんごフェスティバル」
「…何か黒いイベントだな」
社会人になってからそういうイベントは控えていたけれど、
久しぶりに参加する。ので準備に忙しい歩。
右へ左へ何をしているかよくわからないが徐々に準備が整っていく。
本当は瓜生にも来てほしいけれど、絶対嫌な顔をするから。
それに、忙しいのに無理に嫌いな場所へ連れて行きたくない。
「よし。準備万端。たぶん帰りはお昼過ぎになるかな」
「よかったら送ろうか?」
「1人じゃないから。電車で落ち合うんだ」
「そうなのか」
友達、とのことで。歩の口から出てくる友達は何時も決まっている。
あの実果って子。
他に友達は居ないのかそれとも単純に口にしないだけか。
そこには特に興味はないので瓜生も聞くことはしない。
普通の女の子に見えたがやはりそういう毒々しいものが好きだったのか。
ぼんやりと様子をうかがっていた瓜生。歩が居ないと聞いて少し残念そうだが
明日はのんびり部屋で使えそうなレシピの検索。後で畑コースと決めた。
こうして、翌日。
歩は遠足の日の小学生のように意気揚々と部屋を出て行った。