偽りの御曹司とマイペースな恋を



父親は大反対して今でも帰って来いと言っているけれど

瓜生との同棲を決めたのは歩。理由は簡単。

彼の側に居たいから。


そんな歩が無事短大を卒業し就職したと聞いた瓜生の養父が突然
同棲するのなら新しい部屋に移りなさいと用意してくれた。
大財閥の当主らしく見るからに高級で部屋も広く、設備もネット環境も快適。

何でいきなり?と不思議に思いながらもアクセスも便利で歩は気に入った。

けどまさか入居と同時に1年近くそこでひとり暮らしするはめになるとは思わなかった。

もしかしたらこのためにわざと仕組んだのかもしれない。

あの父親ならやりそう。


「この部屋は使い勝手が良さそうだな。セキュリティもしっかりしてるし」
「……」
「歩。ワイン買ってきた。一緒に飲もう。飲めるよな?」
「……」
「そうだ。お前が働いてる出版社。なんだっけ、名前。まあいい、そこはどうだ?」
「……」
「そんな拗ねた顔しても何も出来ないぞ?それとも俺の顔なんて見たくないか」
「…ううん。やだ。イツロ君居ないと嫌だ」

手際よく荷物を捌いて部屋着に着替えると新しい部屋をチェックする瓜生。
その間も終始不貞腐れている歩だったがおいでと言われて即座に彼の隣へ移動。

「仕事はどうだ?順調?」
「新人だから覚えることイッパイ。雑用の日々だよ。でもね、楽しい」
「そうか。楽しいと思えるなら何よりだ」
「イツロ君はどう?社長業は」
「社長代理だ。父さんもさっさと身内の誰かを指名してくれたらいいのに。
面白がってるんだろうな、あんな性格だし。身内の連中とも仲が悪いから」
「イツロ君が良いと思ってるんだよ。れっきとした息子だよ?御曹司だよ?」

父親の調子が良くなるまでの代理と言われて、期間限定のつもりで引き受けた。
それがやる気を見せない息子へ父親の策略だったのかもしれないけど。

理由はどうあれ順調に社長としての実績キャリアを積んでいる瓜生だが
未だに養子である自分が瓜生家のトップに立つことはないと思っている。

そこには謙遜よりも面倒だという気持ちと、自分の昔からの夢があるからで。

「それより俺が居ない間、きちんと三食ご飯を食べたか?」
「う、うん。たべた」
「……そうか。なら、いいんだ。忙しいからって朝を抜くなよ。朝食は大事なんだ」
「はーい」

相変わらず家の事はあまり深く話す気はないらしい。
彼が引き取られた家も変わらず複雑な家庭環境なのは知っている。
だから大人しく頷いてそっと身を任せた。

久しぶりの抱擁。嬉しくて。


「…何でチャック下ろそうとする?」
「だって」
「そうだ。お前に土産があるんだ。絶対喜ぶぞ」
「え。なに?なに?」
「こういうの好きだろ?ほら。ヌポポ人形」
「…………。え」





< 7 / 72 >

この作品をシェア

pagetop