偽りの御曹司とマイペースな恋を
あの名栖が瓜生家の嫁になる。
雑用メインで怒られてばっかりだったのに、突然皆がやたら優しい。
特に編集長。ニコニコしだして別人のようになってしまった。
こんなはずじゃなかったのに。でも、あの人は別に嘘は言っていない。
結婚するかは別問題として。
「やあ。歩」
「あ。まだいた」
「まだって酷いな。今までお茶飲んで語らってたんです」
優しくお願いされて消耗品を取りにいって戻る途中の廊下。
壁偽を預け立っている養父がニコっとわらって歩に手を振る。
てっきりもう帰ったかと思ったのに。ちょっとびっくり。
「そうですか」
「てっきり皆に話してると思った」
「話せませんよ。絶対微妙な空気になるんだから」
もっと怒りたいけれど、我慢。
どうせ怒ったって意味は無いのだから。
「一路は有能な人間には違いないけれど、まだまだ未熟で男としても欠陥品と言っていい」
「そんな事」
「無くしたパーツを修復するのは並大抵のことではないだろうね、彼は真面目に頑固だから。
だけど希望はある、彼がどんな反抗期でも暖かく迎えるこの優しい私と。歩が居ればね」
「……ちゃっかり自分自慢してる」
「可愛い歩が居ればね」
「いや、そこだけ言い直しても」
「私も流石に100年は生きられないから。一路君を最後まで守ることが出来ないだろう。
頼むよ、歩」
「貴方なら100年どころか1000年生きそう」
「あそう?ありがとう嬉しいな」
もう、いい。なんか言いたいこといっぱいあったけどもういい。
「ごめん。歩」
「イツロ君のせいじゃないよ。それに、悪いことしてるわけでもないし」
定時きっかり、何時もなら上司に嫌味のひとつも言われる所だが
今回は先輩などにも冷やかされて会社を出る。
携帯には瓜生から「迎えに行く」というシンプルなメールのみだった。
すぐ合流し、車に乗り込むと彼は深く頭を下げる。
「ごめん」
「いいって。そんな謝られると逆に悲しくなるし」
「…会社居づらくないか?何か言われてないか?大丈夫か?」
「うん。式は何時だ?とか凄い言われたけど」
「いじめとかはないか」
「な、ないよ?」
「よかった。俺、ほらあんまり好かれてないだろうから」
「瓜生さんがいれば大丈夫だ!って皆信頼してます」
「……、そう、か。お前が無事ならよかった」
彼が焦っていたのは自分との繋がりのせいで歩が苦しい立場にならないか。
実際はそんな事はなくてただ冷やかされたりやたら優しくなったりと
歩の立場は良くなったと言っていいだろう。