一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~

「……はい、はい。申し訳ございませんでした。直ちに確認して配送の手続きを行います」

 電話に出たセンター長は、受話器の向こうの相手には見えないというのに、必死で頭を下げている。なにがあったんだろう。

「おい、天野!」

 電話を切ったセンター長は私の名前を呼んだ。

「はい、なんでしょう」

「本社の営業が、午前中に送った人工呼吸器の台数が全然足りないと言ってきてる」

「足りない? そんなはずありません! 私は発注書通りに二台送っています」

「二台? 二十台だと言ってるぞ!」

 私は発注書の控えをセンター長に見せた。

「ここを見てください。納品予定は二台になっていますよね」

 センター長は発注書を穴が開くほどみつめた。そして、大きなため息を吐く。

「天野。お前は人工呼吸器一台の値段を知っているか?」

「はい」

「じゃあ、二台でこの値段になると思うか?」

 そう言われて私はもう一度発注書を見返した。総額の欄にかかれていたのは、二台分ではなく二十台分の値段だった。
そして、発注書の確認印に“三上”の印鑑に今更ながら気づいた。まどかの単なるミスか、まさかの故意か。どちらにせよ、どうして気づけなかったんだろう。

「……とにかく謝罪しに行ってこい。我々は残りの台数を送る準備をするから」

「分かりました」

 私は病院の場所を確認すると、事務所を飛び出した。

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