一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
隆は私に全ての責任を負わせて会社を首にするつもりだ。営業部を追いだしただけじゃ飽き足らず、会社からも追い出すなんて。
それほどまでに恨まれるようなこと、私なにかしたっけ?
思い当たるのは少し前の電話。あの時は游さんに邪魔されて適当にあしらった上に勝手に切ってしまった。
そういうの、根に持つタイプだったんだ。なんてつまらない男。そして、部下のミスもかぶれないなんて、最低だな。
「おい、何笑ってんだよ」
「別に笑ってません」
「嘘をつくなよ」
本当は隆の器の小ささを笑ったのだけれど、さすがにそれは秘密にしておいたほうが良さそうだ。
「本当に笑ってなんかいません。もし、そう感じさせてしまったのならごめんさない」
棒読みであやまると、隆は顔を真っ赤にして私に掴みかかってくる。
「なんだよその態度は!」
殴られる。そう思い目を閉じた。しかし衝撃は来ない。うっすら目を開けると、白髪交じりの男性が隆の拳を受け止めていた。
上質なスーツと磨かれた革靴。六十代と思しきその人は、毅然とした態度で隆の手を払いのけた。