一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
「なんで驚くの? 営業部に戻りたかったんだろう。素直に喜んでほしいんだけどな。元カレに追い出されただけでも不幸なのに、セクハラオヤジのお茶くみなんてほんと不幸。そろそろ戻ってきたいころなんじゃない?」
なんでそんなことまで知っているんだろう。私は言葉を失った。そんな私の様子を見た社長はニヤリと笑って長い脚を組み替える。
「なんで知っているんだという顔だな。じゃあ、こういえば分かるかな? 永峯医院長は父の主治医で家族ぐるみの付き合いをさせてもらっている。菱沼は僕の恋人で、物流センターのセンター長は俺が社員として働いていた頃の元上司だ」
「……うそ」
じゃあ、今までのことは全部筒抜け?
「話はいろいろ聞いている。今回の件で、誰を処分すればいいのかが分かってよかったよ。はい、これ」
秘書が手渡したファイルの中から、社長は一枚の紙を引き抜いて私に差し出した。
「……辞令」
「そう辞令。今日付けで本社営業部に異動を命ずる。といっても、引継ぎもあるだろうからその辺は上手いようにやってくれる?」
「分かりました。ありがとうございます」
私は深々と頭を下げた。
それから社長室を出ると、廊下に菱沼さんが立っていた。
「よかったね、天野」
「……菱沼さん」
思わず抱きついた私を菱沼さんはぎゅっと抱きしめてくれた。