一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
「分かりました」
私は湯飲みを受け取って給湯室に向かった。これで最後だと思うと、少し寂しい気持ちもある。私は玉露の缶を手に取ると、急須に茶葉を入れた。
「だから、それは来客だってば……」
振りむくと、蓬田さんが立っていた。
「あ、すみません。でも、最後くらい美味しいお茶を入れてあげようと思って」
「……そうね。でも、なに淹れても気付かないわよ」
「蓬田さん毒舌ですね」
私が苦笑いすると、蓬田さんは「ほんとのことよ」と冷静に言う。
「それより、良かったわね。本社に戻れて」
「はい。災い転じてってやつですね。短い間でしたけど、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げた。そしてセンター長に美味しい玉露を振舞うと、他の社員に挨拶をして回った後、段ボールに自分の荷物を詰める。
思ったよりも少ない。
ほんのすこしだけ名残惜しい気もするが、だからと言ってここに残るつもりはない。営業部に戻り永峯理事長の思いに応えること、そして今後の自分のためにキャリアを積むのだから。
物流センターを出た所で、可愛らしい女性とすれ違う。
「リカちゃん、かな」
これで物流センターには日常が戻ってくる。そう私は思った。