一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
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「どうして話してくれなかったんですか?」
新宿に新しくできた商業施設の中にあるレストランで、私は恨めしそうに菱沼さんをみつめた。
「話さなかったって、ごめん、なんのこと?」
「社長のことですよ。恋人だなんて、驚きました!」
私の言葉に菱沼さんは少し困ったような顔をする。
「聞いたんだ」
「はい。すごく驚きました」
「そうだよね。いつかは話そうと思ってたのよ。でも、なかなかね」
菱沼さんは申し訳けなさそうに言いながら、グラスワインを傾けた。
「言ってくれたらよかったんですよ。……でも、言えませんよね。社長と付き合ってるだなんて。そんなことよりも、今回はありがとうございました。菱沼さんが社長に頼んでくれたんですね」
だからこんなにスムーズに本社に戻れた。しかし菱沼さんはゆっくりと首を横に振った。
「違うの。今回の件があって、彼に聞かれたから話たの。だから、私のおかげってわけじゃないのよ」
「そうでしたか」
「そう。彼にはどうしてもっと早く教えてくれなかったんだって怒られちゃった」
「怒られたんですか?」
「もっと頼って欲しいんだって。でもさ、なんでもかんでも社長の権限でどうにかしようとか考えられなかったから仕方ないじゃない」
菱沼さんはそう言って笑った。そんな所が彼女らしいと思う。そして、頼って欲しいという社長の気持ちも分からないではない。