一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
沢山の人の輪の中に、永峯理事長の姿を見つけた。おそらくその隣にいるのが本日主役の息子だろう。
「理事長先生」
そう声を掛けると私に気付いた理事長は私に歩み寄る。
「天野さん、来てくれたんだね」
「はい、ご招待くださってありがとうございました。これ、お祝いのお花」
「これはこれは、お心遣いに感謝します」
「どうぞ」
私は花束を差し出す。すると理事長は「息子に直接渡してやってくれないか」そういって、女の子に囲まれている息子を呼んだ。
「――おい、游」
まさかと思った。けれど、同じ名前の男性なんてこの世に五万といる。だから、きっと別の人。
父親に呼ばれた彼は女の子たちに丁寧にお礼を言って、こちらを振り向いた。上質のタキシードを身に纏って、髪をきちっと整えて、まるで本物の王子様のようだった。
「……游さん」
そう呼んだ声が震えた。游さんは困惑の表情を浮かべている。
「由衣子ちゃん? どうしてここにいるの」
それは私が聞きたい。私はなんて勘違いをしていたんだろう。
游さんは貧乏なフリーターなんかじゃなかった。大病院の跡継ぎだった。
そして游さんの”お妃さま”はこの中から選ばれる。
「お誕生日、おめでとうございます。それから、素敵なお相手が見つかるといいですね」
それだけ言うと私は游さんに背を向けて走り出した。