一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
 
 
 僕は走り出した彼女を追いかけた。しかし、大勢の人の背に阻まれてなかなか追いつくことができない。

「まって、由衣子ちゃん」

 父が開いた僕の誕生日会。僕の見合いも兼ねているらしく、まったく乗り気じゃなかった。土曜の夕方に舞い込んだ緊急オペがこのまま長引いてくれればいいのにと思った。

しかし、わざわざ足を運んでくれた人たちのことを思うと、顔を出さないわけにもいかないだろうと考えて渋々ここへ来た。そうしたらこんなことになった。

どうして彼女がここにいたかなんて、いまさらどうでもいいことだ。とにかく捕まえないと。

店の扉を開け、外に出ると階段を駆け下りる彼女を見つけた。

「由衣子ちゃん!」

 僕は叫んだ。でも、彼女は足を止めない。店の前にはタクシーが止まっていて、もうすでに後部座席のドアが開いていた。

間に合わないかもしれない。

僕は階段を必死でかけ下りる。由衣子ちゃんも必死だ。なかなか追いつけない。やがて階段を下り終えた彼女は慌ててタクシーに乗り込む。

その時、由衣子ちゃんの履いていたパンプスが片方脱げてしまったが、タクシーはそのまま走り出してしまった。

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