一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
「……はぁ」
スマホの終話ボタンを押すと、大きなため息を吐く。すると誰かの手が僕の視界を塞いだ。
「だ~れだ」
まるで鈴を転がしたような可愛らしい声が耳元で囁く。
「結花、離れなさい」
「正解! さすが游君」
くすくすと笑いながら離れた手はそのまま僕の首に纏わりついた。甘すぎる彼女の香水の匂いが僕の鼻をかすめる。
結花は遠縁にあたる資産家の娘だ。
帰国子女ということもあり、スキンシップが過剰で、温室育ちのせいかだいぶ世間知らずだ。もう、二十五だというのにとても幼い振舞をする。それを多くの男たちはかわいいというが、僕はそうは思えない。
「ねえ、游君。気に入った女の子いた?」
「申し訳ないけど、会場にいる子たちをそんな目で見てないよ」
僕が追いかけてるのは由衣子ちゃんだけだ。そう言いたかったけれど、結花がへそを曲げたら面倒なのでよした。
「そりゃそうでしょ。みんな不細工。結花の足元にも及ばないわ」
結花はきれいな唇を釣り上げて笑う。気位の高さは天下一品だ。
「しっ、そういうことを大きな声で言うんじゃない」
僕は人差し指を立てて唇に当てた。
「なんで? だって本当のことなんだからいいじゃない。それに、みんな自分が選ばれるんじゃなかってドキドキしてるみたいだけど、游君のお姫様は結花だって決まってるのにね」
「……勝手なこと言うなよ、結花」
僕がそう言うと、結花は即座に反論する。
「勝手じゃないもん。おじ様は、結花さえ良ければお嫁に来ていいって言ってくださったし。それに、約束したじゃない忘れたの?」
「忘れた」
「酷い!」
結花は頬を膨らさせて見せた。
「酷いもなにも、二十年も前の話だろ。もう時効だよ」