一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
僕がまだ小学生だった頃、イギリスに住んでいた結花一家を訪ねたことがあった。
まだ幼かった結花は、本当にかわいくて、まるで天使のようだと思った。
産まれてからずっと英国暮らしの彼女は、日本語よりも、英語の方が得意で、そんな彼女がたどたどしい日本語で僕のお嫁さんになるというから僕は「いいよ」と答えたんだ。
それはいわゆる社交辞令のようなもの。無責任と言われればそれまでだけれど、僕もまた幼かったのだ。
「なんだ、覚えてるじゃない。結花のことお嫁さんにしてくれるって言ったよね? だから結花は信じて待ってるの!」
「ごめん、結花。待たせてたとしたら、本当に申し訳ないことをしたけど、僕には今、好きな人がいるんだよ」
言わないでいようと思ったのだけれど、結花が引き下がらなそうだったので話してしまった。結花の表情がみるみる曇っていく。
「うそ」
「うそじゃない。だから結花も僕じゃない誰かと幸せになって」
そう言うや否や結花は奥の頬を平手で打った。バチンと大きな音がして、目の前に星が飛んだ。
「游君のばか! 結花もう帰る」
今までの結花のこのセリフは、追いかけて欲しいだけの嘘だったのだけれど、今回ばかりは本当に帰ってしまったようだ。
「これで僕のことは諦めてくれたらいいんだけどな」
傷つけたくないからと思わせぶりな態度でいるのは優しさではない。僕は結花の幸せを心から祈っているのだ。
それから僕は入れ替わり立ち代わり挨拶に訪れる女性のお相手をしながらパーティーが終わるまでの時間を過ごした。どの女性にも気のない態度を取る僕に父はかなり腹を立てていたようだけど、それが僕の誠意だと思うから。