一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
「……先生? 永峯先生! どうしたんですか、ぼんやりして」
若い看護師がいきなり顔を覗き込んできて、僕は驚いて椅子から落ちそうになる。
「わ、ごめん。なに?」
バイト先の病院の外来診察室で、僕はボンヤリと考え事をしていた。考えることと言えば、あれから連絡が取れなくなってしまった由衣子ちゃんのことなんだけれども。
「大丈夫ですか?」
心配そうな表情の看護師に笑顔で答えた。
「うん、大丈夫」
「ならいいんですが。それで、受付時間過ぎてから来ちゃった患者さんがいるんですけど、どうしますか?」
受付時間を過ぎた場合は、緊急性のある患者以外は断るようにしている。そうでないと、時間を守って来院している患者に示しがつかないし、僕たちの拘束時間も伸びる。
「どんな症状?」
「右下腹部痛です。消化器内科が診ないって言うので外科に回ってきちゃったんですよ」
ほんとやんなっちゃう。と看護師は言った。ここの消化器内科はわりとドライなスタンスで仕事をしている。それがいいのかどうかは僕には言えない。
「アッペかな? いいよ、診るよ。受付してくれる?」
虫垂炎かもしれない。そう思った僕はその患者を受けることにした。
「はーい。さすが先生! やさしいんだから~バイトじゃなくて、常勤としてきてくださいよ」
「それはどうかな」
僕たち医者は定められた休暇のほかに研究日といって、大学病院なんかで勉強をしてもいいよという時間をもらっている。
その時間をバイトにあてる医者は少なくなくて僕もそのひとりだ。バイトといっているけれど、いわゆる非常勤で、契約内容によっては当直にも入る。
お金が欲しいからという訳でもなく、自分のスキルを上げるためだったりとか、医局のしがらみだったりとか、色々な理由があるのだけれど。
あの日、始めて出会った日。僕が何の気なしに“バイト”と口にしてしまったことで、由衣子ちゃんに僕がフリーターだと勘違いさせてしまった。
何度か訂正しようと思ってけど、タイミングがつかめなかったのもあるし、僕の中で彼女を試そうと思った気持ちもなかったわけではなかった。