一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
八月に入って、営業部にとある突然辞令が下りた。
それは、隆の大阪支社への異動命令だった。引継ぎが済んでいた所を見ると、だいぶ前に内示があったのだろう。
まどかは素知らぬ顔で仕事をしていた。菱沼さんの話では、もうすでに別の男がいるのだそうだ。てっきり大阪へ着いていくのかと思ったのに。これでは隆も浮かばれまい。
「天野さんは参加されます? 明後日の送別会」
営業部の後輩が、隆の送別会の幹事を任されたらしい。人数確認用のメモを持って私の所までやってきた。
「送別会ね」
「無理ならいいんですよ」
「ううん、参加する」
隆の送別会は参加することにした。私が顔を出したら気持ちよく酔えないかと思ったけれど、「私はもう、貴方にされた事なんて、なんとも思っていませんよ」という気持ちを伝えたかったから。
恨もうと思えば恨むことは出来る。けれど、隆とのことがあったから、私は游さんと出会えた。それは感謝すべきところだろう。
送別会の当日、私は隆とは同じテーブルには付かなかったものの、隆を送り出す気持ちで参加した。
「天野は二次会どうする?」
一次会が終わり店の外へと出た後で、部長は酔って赤くなった顔でそう聞いた。
「私はここで失礼します」
「そうか、気を付けて帰るんだよ」
「はい。では、お先に失礼します」
みんなに挨拶をして、まだ人通りのある通りをひとり駅まで歩く。
恋人同士とすれ違うと、游さんの顔が浮かぶ。
游さんが何者でも好きでいる自信があったのに、本当の彼を知って怖気づいた。
もしかしたらそれは、本当の好きとは違うのかもしれない。だからもう、忘れよう。
最近そう思うようになった。思い込まないと辛かったから。